9-3-7.闇と実験
街魔通りの街立魔法学院正門前にある、和をテーマとした店【侘寂茶屋】。和風のBGMが流れる店内で、スイは大好物の羊羹と対面していた。
右手にはナイフの形の楊枝。
(さて、食べるか。)
スイは慎重に楊枝を羊羹に当てる。この一刀が大事なのだ。ゆっくりでも、早過ぎてもいけない。羊羹の組織を潰さずにスムーズに切る事が、美味しく食べる大前提となる。
羊羹の美味しさはその食感で決まる。故に、楊枝で作る羊羹の断面が汚ければ汚い程、その美味しさを損ねてしまうのだ。
だからこその、慎重さ。この一刀をミスれば、あまり量の多くない羊羹を存分に堪能できる回数が減ってしまう。
スイは、何時になく真剣な表情で楊枝に力を入れる。
「お待たせしました。こちらが日本茶です。今日は渋みが控え目で、お茶本来の甘みを引き出したものです。………。」
店員がお茶を運んで来た事で、スイは羊羹入刀を一時中断する。
長いお茶の説明を聞き流しながら、早く終わらないものかと待つ。
(やっと終わったか。次こそは…)
スイは改めて楊枝を握ると、その刃先を羊羹に優しく触れさせる。最高の羊羹タイムを満喫する為に…スイの楊枝が羊羹を滑らかに切断して行く。残り半分…最後の最後まで気を抜く事はできない。
ドガーン!
突然、爆音が響く。同時に大きい揺れが侘寂茶屋を襲った。店内に響く悲鳴や、食器の割れる音。
スイも転ばないように手足で体を支える。
(なんだ…?この規模の揺れと爆音…テロでも出たか?)
少しすると、爆音と揺れが収まる。
突然の出来事に、店内の人々は目を丸くして動きを止めている。店の外では叫び声が上がっている様だ。
スイも周りの人々と同様に硬直していた。




