9-3-4.闇と実験
火乃花とルーチェは、街魔通りに併設されたベンチでアイスを食べていた。容赦のない日差しでどんどん溶けるので、絶えずペロペロしなければならない。
「ねぇ、ルーチェ。おかしくない?」
「そうですわね。これだけ暑いのに、なんで日向でアイスを食べているのでしょう?」
意図した質問と全く違う答えが帰ってきた為、火乃花はがっくしと頭を下げる。
「違うわよ。ペットショップの事。執行部の人から聞いた情報と噛み合わなさすぎるわ。」
「あ、そのことですのね。私にも原因がさっぱり分かりませんの。」
火乃花とルーチェは午前中から、魔法街南区のペットショップを全て当たっていた。しかし、販売数が大幅に増えている店が殆どなかったのだ。
それではと、念の為に新店の出店状況も確認したのだが、こちらは執行部の伝えてきた通りに増えていなかった。
「そもそもよ、中央区から動物の輸出が増えてるのに、販売数が増えてないっておかしな話よ。それどころか、入荷量が増えた店も無いなんて。輸入された動物達はどこに行っちゃったのかしら。」
ルーチェは溶けたアイスがコーンを伝うのを舐めて掬い取ると、空を見上げる。
「んー、そうですわね…。輸出入を取り仕切ってるのは魔商庁で、その直轄部署は魔法協会の中にありますわ。となると…。いえ、でも輸出入をしている業者も…。」
ルーチェはそのまま黙り、考え込んでしまう。
火乃花はルーチェから視線を外すと、街魔通りを歩く人々を観察する。
(のどかよねぇ。私も学生らしく遊んで過ごしたいわ。)
ここ最近、何度も思う気持ち。いくらしっかりしているとは言え、火乃花も学生の1人である。仲の良い友達と遊びたい気持ちは少なからずとも存在する。
隣に座るルーチェを見ると、相変わらず真剣な顔で考え込んでいる。火乃花の目線はルーチェの手元へと移動した。
「ルーチェ…アイス垂れるわ。」
「えっ?あら、あらあらですわ!」
ルーチェは慌ててアイスをペロペロ舐め始める。
あまりにも丁寧にペロペロするルーチェの姿を見ている内に、火乃花は何だか恥ずかしくなってくる。
「ルーチェ、その舐め方…ちょっとエロいわよ?」
「そうですの?わたし、いつもこんな感じでアイスを食べていますのに。」
何故か微妙に会話のニュアンスがズレている感覚。
(ま、ルーチェの事だし、とやかく言う必要はないかしらね。)
ふと視界に時計が入る。
PM0:55
火乃花は残りのアイスを頬張り始めた。




