9-2-35.獣
男の呻き声が響く。
「はぁ、はぁ、はぁ…。かはっ。俺が、俺が悪かった!それを返してくれ!グゥゥ。」
ロジェスだ。【其れ】がいる部屋で頭を抱えながら唸り声を発している。
ロジェスが求めて手を伸ばす先には、腕を組んだサタナスが、冷めた目でロジェスを見下ろしていた。
「ふむ。ロジェス…これを返して欲しいのか?」
サタナスは左手に持つクリスタルを見せびらかす。
「そ…それだ!それだそれだそれだ。俺にはそれが必要なんだ。早くよこせぇ!言う事は何でも聞く。…ぐ…はぁ…はぁ。それを…それをよごぜぇ!」
サタナスはロジェスが必死に伸ばす手を蹴り上げた。
「お前は自分がした事の重大さを全く認識していない様だな。…今回のお前の軽率な行動で、僕達の計画が露見する所だったんだぞ。それでも必要なデータを集める為に、ギリギリのラインで動いているっていうのに…計画にない行動をし、挙げ句の果てには捕まりそうになっただって?ふざけるのも大概にして欲しいな。」
ロジェスは実験室の冷たい床に這いつくばかりで、何の反応も示そうとしない。
「おいおい。こんな事でくたばるのか?僕が拾ってやった恩も忘れて?まだまだ働いてもらわないと困るんだよ。いいか?お前が動かなければ僕の実験は成功しない。僕の実験が成功しなければ、お前が今感じている苦しみから解放される事もないんだ。」
ロジェスはギチギチと、壊れた人形の様に首を動かす。
「わ…かった。言う通りに動く。勝手には動…かない。ぐふっ。ゴホッゴホッ…。だから….それを、くれ。」
もはや体を動かす事も叶わないのだろうか。ピクッピクッと痙攣をするのみで、辛うじて口を開いている。目は虚ろ。サタナスの方を見てはいるが、焦点は定まらず、口から涎が止めどなく流れる。
「…ふん。いいだろう。次が最後のチャンスだと思え。これでしくじったら、お前の命は実験で使い切らせてもらう。」




