9-2-32.獣
ラルフは少女をヒョイと降ろした。
「ん?俺が誰かって?まぁ名乗るほどの者じゃないな。可愛い女の子を虐める場面に出くわしただけだからよ。」
そう言ってラルフは少女の頭を撫で撫でする。
緊張感のなさにロジェスは舌打ちをすると、クリスタルをポケットに仕舞い、両腕に炎を噴出させた。
「お、やる気か?」
ラルフはニヤリと笑うと右手から高密度の魔力を撃ち出す。
「そんなん喰らうかぁ!」
ロジェスは片手で魔力を弾き、目の前に向かって両手をかざす。
「…あぁん?」
既にラルフの姿が消えていた。
「よし。気がついたな。出来るだけ早くここから逃げるんだぞ?」
「は…はい。ありがとうございます!」
「おじちゃんありがとー!」
ラルフは殴り飛ばした母親の近くに立っていた。母親は顔が腫れてはいるが、他に目立った外傷は無い様だ。
母親は頭を1度下げ、ロジェスを怯えた目で見ると娘の手を引いて走り出した。
「あぁん?逃げんなよ!つまんねぇだろーよ!?」
ロジェスは親子の背中に向けて炎渦を撃ち出す。
炎渦はその延長線上にある物を巻き込み、焼き尽くし親子目掛けて直進した。
直撃。
かと思ったが、炎渦はぶつかる直前に何かに阻まれる様に、その直進を止められてしまう。
「おいおい。一般市民を巻き込むなって。お前の相手なら俺がしてやるぞ?」
ラルフの口から発せられる余裕の挑発。ロジェスは、腹の奥からフツフツと沸き上がる怒りの感情をぶつけるために炎の威力を上げ、ラルフを睨みつける。
しかし、怒りの感情のままに攻撃をする事はなかった。
ラルフはニヤリと笑い、腕を組んで立っている。しかし、その目は全くと言ってイイほどに笑っていなかった。ロジェスも馬鹿ではない。そこに気づき、無闇に怒りのままに攻撃する事の危険性を察知したのだ。
…例え誰であったとしても、叫ぶのを躊躇うほどのプレッシャーが放たれている。この場で軽率な行動を取れる豪傑は中々居ないと言えるだろう。




