9-2-31.獣
少女は母親が崩れ落ちるのを見て、ようやく危機を察知する。
「え?なんで?なんでぶつの!?おにーちゃん悪い人なの!?」
しかし、幼い女の子に謝るという選択肢は無かった。母親をぶたれたという事実に対する怒りが先行してしまう。
女の子は自身の頭を掴む手を必死に叩く。
「いってぇなぁ?おい?とりあえず、お前はこいつの血肉になれよ?」
ロジェスが左手に持つクリスタルが輝く。
「くぅ。これだ。これだこれだ!悔しいが俺にはこれがなきゃダメだ!やめられねぇ。やめられねぇよなぁ!?」
「ひっ…。」
少女は間近で見る狂喜に恐怖を覚える。
「死」。幼い女の子の脳裏にそれが過る。
「ん?」
不意にロジェスが辺りを警戒する。
「だれかいるのか?」
少女の頭がギリギリと締め付けられる。少女はその強烈な痛みに泣き叫ぶが、ロジェスは興味がない。
それは突然現れた。
ロジェスの目の前に文字通り「突然」現れたのだ。
まず目に入ったのが金髪の短髪。そして、デブちんちっくな体型。それは魔法街南区で有名な魔法使いの1人…ラルフ=ローゼスだった。
「ほれ!」
軽い掛け声と共にラルフから掌底が繰り出され、ロジェスの顎を下から打ち上げた。
「がはっ…!」
ロジェスは仰け反る様にして地から足を浮かせると、後方に倒れ込んだ。
右手に掴んでいた…掴んでいた筈の少女は、いつの間にかラルフに抱っこされている。
ロジェスは口の中に広がる血を吐き捨てながら立ち上がる。
「てめぇ…ナニモンだ?俺の邪魔をすんじゃねぇよ。」




