9-2-26.獣
MagicShop男女男女を出たルーチェと火乃花は南区の転送魔法陣へと進んでいた。
ルーチェの足取りはいつも通り、火乃花の足取りはどこか怪我をしているのかと心配になるほど覚束ない。
「私…もうあの店には行きたくないわ。」
「火乃花さん、お疲れ様ですの。まさか、あそこまでされるとは私も思わなかったのですわ。」
「そもそも、ルーチェが私への頬ずりを勝手に許可したからでしょ!?」
「それは仕方のないことですの。何かを手に入れる時は、ギブアンドテイクが基本ですの。今回はそれに火乃花さんが含まれてしまっただけですの。…さすがに、お嫁に行けないって嘆いてもおかしくないレベルの犠牲だったとは思うので、そこは申し訳なかったとは思っていますのよ?」
火乃花は「お嫁に行けない」の辺りで危うく躓きそうになる。
「思い出すだけで涙が出てきそうになるわ…。まだ頬の辺りにヒゲの感触が残ってるし。」
「あら、頬の辺りだけですの?」
「…いや、他にも…ってこの話はお終いよ!も~いつかあいつを絶対に思い切り殴ってやるんだから!」
少し元気を取り戻したのか、火乃花はズカズカと歩調を早める。
慌てて追いかけるルーチェ。
「で、ルーチェ。誰が転送魔法陣で待ってるのよ?」
「私の御父様の使いですわ。」
2人がMagicShop男女男女を出た所で、ルーチェの父親から魔法による伝言が届いた。執行部から渡された執行部調査員のバッジに、夏合宿の模擬戦争で使った通信機能と同じものが搭載されていたのだ。
そんな機能が付いている事の説明が何もなかった事に、火乃花がご立腹だったのは言うまでもない。
「今更、なんの連絡かしらね。」
「事件で新しい情報が入ったんだと思われますわ。そうじゃなきゃわざわざ人を送ったりはしないと思いますの。」
少し進むと、南区への転送魔法陣が見えてくる。魔法陣の周りには夏休みという事もあり、学生やら子供が大勢たむろしていた。
夏休みになると中央区への通行許可証が比較的発行されやすくなる事、そして今の時刻が夕方という事もあるのだろう。
若者たちの顔は楽しさに溢れていた。自分と同じ学生が楽しそうにしている最中、こうして事件の調査をしているのは、学生としてどうなんだろうか。なんて事を考えながら、火乃花は執行部の人間を探す。




