9-2-21.獣
龍人と遼が魔法の台所で警備を始めた翌日、ルーチェとレイラは中央区を歩いていた。
前日に執行部の調査員として、南区の魔具専門店を当たったのだが、クローを販売した店は1つも無かった。そもそも、クローを使う魔法使いがほとんど居ない為、在庫を持っている店も魔法の台所しか無かった。
となると、次に考えられるのは中央区の魔具専門店という事になる。
という過程を踏み、片っ端から当たって行くという、数打ちゃ当たる戦法で歩き回っているのだが…今の所当たりは無い。
「残すは…あの店ね。」
「そうですわね。私もちょっとあの店は苦手ですわ。」
「ルーチェも行ったことあるのね。あの店だけは行きたくなかったんだけど…。」
「でも、行かないわけにはいきませんですわ。火乃花さん、覚悟を決めて行きますわよ。」
2人は嫌な顔をしながらも、MagicShop男女男女のドアをくぐる。
店に入るなり聞こえてきたのは、やはり男の絶叫だった。
「や、やめろ!もう勘弁してくれ!ぶっ…うえ…ぎゃ…待ってく…。」
沈黙。
「さぁてぁ、次はん…あなたねぇ~!」
再び店内に響く男の声。
…一通り店主によるご馳走タイムが終了した所で、ルーチェと火乃花は店主の所に近寄って行く。
「うわ…。」
そこには床に複数の男子と、その中心に満足そうに恍惚とした表情で立つ店主…ドレッサー=アダルツが居た。
「あんらぁ!ブラウニー家のルーチェじゃなぁい!相変わらず素敵な金髪じゃないのぉよぉ?その髪先を指でくるくるしたいわん。」
「お久しぶりですわ。指でくるくるはお断りしますわ。」
ルーチェの声が珍しく硬い。それ位苦手なのかと、火乃花が想像していると、ドレッサーが火乃花を見る。
「あぁん!あなたは…火乃花ちゃんね!覚えてるわよぉん。その肉感的なボディ!そして私のおヒゲをスリスリした時のあの感触!中々に絶品だったわねぇん。どぉ?もっかい私の寵愛に身を委ねてみなぁい?サービスしちゃうわん。」
火乃花は一歩後ずさり、口元を引きつかせる。
「えっと、遠慮しときます。」
「あぁん!あぁん!そんな照れないでいいのよぉん?そんな焦らしプレイ…私、私、燃えちゃうわん!」
「あ…えっと。」
あまりの猛攻に火乃花は対抗出来なくなる。
「ふふ。ふふふふ~。」
近寄るドレッサー。身構える火乃花。
惨劇の幕が開く前に、ルーチェが2人の間に割り込んだ。
「ドレッサーさん。お楽しみは後でお願いしたいのですわ。」
相変わらず硬い声のまま、ルーチェがは執行部からもらったバッジをチラリと見せる。
そのバッジを見た瞬間、ドレッサーの表情が驚きに変わる。
「なるほどねん。あなた達が一緒にいるのは珍しいと思ってたんだけどん。じゃぁ、そうねぇ…店の奥に椅子があるから、少し待っててねん。この店は私1人だから、開けたまま色々話すことは出来ないのよん。今日はもう店を閉めちゃうから。まだ残ってる若者を味わって来るから、大人しく待ってるのよん?」
ドレッサーはクネクネと店の棚の影に消えて行った。
再び響く絶叫。
「ルーチェ…あんた凄いわね。私はあの人の全然駄目よ。」
「小さい頃から何度か来てますの。それでも慣れませんですわ。じゃ、私たちは言われたとおり奥の椅子に座って待ってましょう。」
「そうね。まだまだ時間がかかりそうだし。」
店の中では、別の男子の叫び声が響いていた。




