9-2-20.獣
「へ?今から?」
「お?勿論だ!善は急げってな!がははは!」
「げ。」
明日から。
とか、
今日の夜から。
なんて言葉を想像していた龍人と遼は「今から」という言葉に呆気に取られる。
「じゃ、店が閉まる21時には店に来てくれよ!寝場所は店の2階に用意しといてやるからな!よし、そろそろ客がわんさか来る時間だ。儲けるか!」
豪快に笑いながら店内に戻って行くシェフズを見送った龍人は遼に呟く。
「なんかさ、こーゆー感じがずっと続くのかと思うと、ちょっと不安だわ。」
「うん。俺も身が持たない気がする。」
2人の視線の先ではレイラがシェフズに指示をされ、店の中を走り回っていた。
((早く犯人を捕まえて、解放されよう))
龍人と遼が同時に、同じ事を思った瞬間だった。
同日夜。
街魔通り東側の住宅地域で、1人の女性が路地裏に追い詰められていた。
「な…何なのよアンタ!」
女性を追い詰めた人物…影が纏わり付いている…人の形を模した影と表現するのが妥当か…は、右手を女性に向ける。
キィィイン
甲高い音が女性の鼓膜を直撃し、脳を揺さぶる。
「あ…。」
意識を手放す女性。
影の人物は地面に崩れ落ちた女性へと近付くと、バッグを手に取り中身を確認する。そして、中から無造作に幾つかの物を取り出すと、バッグを女性の側に投げ捨て、その姿を消した。
同時刻。
住宅地域で数人の女性が正体不明の人物に所持品を盗まれる事件が発生する。
同日深夜。
高級中華料理、中華帝国。
戸締りをしっかりとされた店の裏口に立つ人物。…その人物も影が纏わり付いており、顔の判別をすることも、体型の特徴を掴むことも出来ない。
その人物がドアに触れると、カチャンという音を響かせ、鍵が解錠される。
迷うことなく店の中に入って行く影の人物。
翌日の朝。
中華帝国の店内から、クリスタルが盗まれていた。




