9-2-12.獣
コンコンコン
ドアがノックされる。
「入るのである。」
街立魔法学院の校長室。ドアを開けて入ってきたのは、ラルフ=ローゼスだった。
ヘヴィー=グラムは、ソファーに深々と座りリラックスムードでラルフを迎え入れた。
ラルフは向かいのソファーに座るなり口を開く。
「校長、今日は何で俺を呼んだんですか?」
「ふむ。ラルフも意地が悪いのである。もう分かっているのじゃろ?」
ラルフは視線を宙に漂わせ、考える「フリ」をする。
「そうですね。色々思い当たる事があるんですが。上位クラスの面々が抱える問題について。生徒間の恋愛沙汰が増えてきた問題。とかですかね?」
「ふむ。ラルフ。関わりたくないのかと見える。じゃが、お主の立場上それは難しいのである。」
ラルフは相変わらず分からないフリを続ける。
「ん?ヘヴィー校長。何を言ってるんですか?他に大きな問題なんてありました?」
ヘヴィーは目を細めると、ソファーから立ち上がり、指をパチンと鳴らす。すると、右手には1本の杖が握られていた。
「さて…ラルフが少し腑抜けた様なのである。根性を叩き直してあげるのである。覚悟するのじゃよ?」
ラルフは硬直した。
「げっ。校長…本気っすか?」
「勿論なのである。」
「今からあの場所に転送するでの。あそこなら何も気にせずに魔法を使えるのである。」
ヘヴィーが喋り終わるのと同時に杖が輝き始めた。
慌てるラルフ。
「分かりました!校長にいじめられる位なら、ちゃんと協力した方が何倍もマシです!やりますよ!やりますって!通り魔事件の事ですよね!?」
ラルフがここまで慌てるのを考えると、ヘヴィーの実力が相当な物だと想像する事ができる。流石は街立魔法学院の校長と言ったところか。
ヘヴィーはやや口を尖らせながら杖を消した。
「なんじゃ。久々に思い切り魔法を使えるかと思ったんじゃが。つまらないのである。」




