9-2-9.獣
青年は腕を組みながら、慎重に説明を始める。組織の極秘事項に触れないように。…嫌な役回りを振られたものだと心の中で嘆きながら。
「まず、警察ですが…これは分かりやすいですね。事件の究明。この一言に尽きます。事件の犯人を捕まえて、魔法街に住む人々に危険が及ぶ可能性を排除する。これが警察の主な目的です。
続いてギルド。この組織が厄介なんです。基本的に、ギルドは依頼主による依頼をギルドメンバーが受諾し、達成するという形です。つまり、ギルドがギルドとして事件を調べる。という事は、ほとんど無いんですよ。今回で言えば、通り魔事件に興味のある人、不安を覚えている人、憤りを感じている人が依頼主になります。そして、その依頼を受けた人が動くわけです。動く人の思惑も関わってくるので、実際に誰が協力者になり得て、誰が妨害者になり得るのかは、その場で判断していくしかないと言えるでしょう。」
(ギルドねぇ。確か龍人君と遼君がギルドに入ったんだっけ。遼君は比較的慎重だけど、龍人君って自然と面倒事に巻き込まれるタイプだから心配ね。)
ここで火乃花は意図的に目を細める。
「で、その2つの組織が動いていれば大丈夫そうだけど、ここで敢えて執行部が動いている理由と目的は?」
青年はその言葉を予想していたのか、口を横に引く。
「そうですねぇ。秩序を保つ為。とでも言いましょうか。世の中には平和であっても私利私欲の為に動き、混沌を招く存在がいるんですよ。それを突き止めるのが、私達執行部の目的です。」
ルーチェの目がキラリと光った…のは気のせいだろうか。
「つまりですわ、行政区の高官の中に私利私欲の為に暴走している人がいると睨んでいるのですわね。執行部の中にいる可能性も捨て切れませんわね。」
「いえいえ、執行部の中に居ると睨んでいたら学生のあなた達には…。」
そこまで話すと、青年はしまったとばかりに口を噤む。




