9-2-8.獣
「はぁっ…はぁ。」
その青年はルーチェと火乃花の下に辿り着くと、膝に手をついて息を整え始めた。
「はぁ、あの、霧崎火日人執行役員から娘さんとその友達にこれを渡せって言われまして。」
その青年が差し出したのは、バッジだった。
「何このバッジ?」
「始めて見るバッジですわね。」
「そのバッジは執行部直属の調査員である事を示す物です。これが交付されることは本当に稀なので、無くさない様に気をつけてくださいね。」
執行部直属の調査員。火乃花はその言葉に重みを感じる。普通の学生とは別の世界に足を踏み入れてしまったのではないか、という疑問が頭を過る。
「ちょっと待って下さいな。」
火乃花はルーチェの言葉に思考のループから抜け出すと、隣にいる彼女を見た。
「はい、なんでしょうか?」
律儀に返事をする青年。
「執行部直属の調査員っていうことは、警察とは関係が無いってことになるのでしょうか?」
「あぁ、そうか。それを説明しなきゃですよね。えっと…、今回の事件を調べる組織は、執行部、警察、ギルド。この3つの組織が関わってくると推測されます。ある程度の協力関係はありますが、基本的にはそれぞれが独立した組織ですので、調査をしている中で他の組織とぶつかることも予想されますので、その点に関しては十分に注意してください。」
「面倒臭いわね…。協力しちゃえばいいんじゃないの?」
火乃花のもっともな疑問に、青年は困ったような笑顔を浮かべた。
「その意見はたしかにそうなんですがね。それぞれの組織が調査する目的が違うので、そこで利害関係が一致しないことが多いんですよ。」
「目的?事件解決の他に目的があるんですの?」
「えぇ。そうですよ。んー、どこまで話して良いのかなぁ。まぁ、執行部の調査員として動いてもらうのに、ある程度の知識がないと弊害もありそうですし…。簡単に説明しますね。」




