9-2-7.獣
「いいえ、違いますわ。ここを見て下さいな。」
ルーチェは写真の中のある1点を指差す。
「この場所、地面に細長い傷が数本走ってるんですの。しかも、全て等しく並行に。これは、そういう武器を使わない限り出来ない傷だと思いますの。」
ルーチェの指し示す場所を見ると、確かにその様な傷が地面に走っている気がする。と言うのも、その場所一帯が大きくえぐられているからだ。
「んー、有る様な無い様な。でも…何もアテがない状況で調べるよりはマシね。じゃぁ、その線で調べてみましょ。」
「はいですわ。」
ルーチェはニッコリと微笑むと、資料を纏めて立ち上がる。
「じゃぁ、火乃花さん。いきますわよ。」
「…え?もしかして今すぐに動き始めるつもり?」
「もちろんですわ。こういうのは早く動いた方が多くの情報を得られるものですわ。事実というのは時間と共に隠蔽されていくものですから。」
そう言われてしまうと、反論することもできない火乃花は渋々頷くのだった。
2人は小会議室を出ると、出口に向かって歩く。事務局の前を通ると、先ほどとは打って変わって中が慌ただしくなっているようだった。ドア越しにも何やら声が飛び交っているのが伺える。
「さっきは静かだったのに。もしかして、通り魔事件がまた起きたのかしら?」
「どうなんでしょう?もしあったら、火乃花さんのお父様から連絡があるんじゃないでしょうか?」
「それもそうね。あちこち気にしててもしょうがないっか。出来ることをするしかわね。」
「ですです。」
2人が話しながら出口に差し掛かった時だった、後ろから呼ぶ声が飛んでくる。
振り向くと、見たこともない青年が猛ダッシュで近づいてくる最中だった。




