9-2-2.獣
翌朝、街魔通りはいつも以上の騒々しさに見舞われていた。その原因は、昨夜起きた「通り魔事件」の為だ。
事件現場は街魔通りから一歩裏に入った住宅地域。
そのあまりの惨劇に誰も気づかなかったことから、結界が張られていたとの予測まではされている。
警察は周囲に立ち入り禁止区域を設定、現場検証を徹底的に行っている最中だ。
魔法街南区では滅多に起きない事件。その現場を見ようと、多くの野次馬が押し寄せているのだ。
決して褒められたものではないが、それでもしょうがない事だろう。
そんな野次馬の群れを見つけ、足を止めたのは、高嶺龍人だった。
ギルドの依頼で城(家)掃除に勤しんで4日。やっと半分の部屋が終わり、今日もこれから掃除に向かう所だった。
「なんだこれ?」
龍人は不審な目でその人混みを見る。その人混みに居る人々は、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべて居る人ばかりで、楽しそうな表情をしている人は1人もいない。
(楽しい事じゃなさそうだし…変に巻き込まれると、掃除が終わんないか。後で誰かに…。)
龍人がその場を立ち去ろうとすると、後ろから声を掛けられた。
「あ、龍人君!おはよー!」
振り向くと、レイラだった。
偶然にも、龍人が立ち止まっていたのは魔法の台所の前だったらしい。
「ん?おはよー。今日も朝からバイト?」
「うん!最近商品の知識が付いてきたから、前より楽しくなってきたよ。」
ニッコリと笑うレイラを見ていると、こちらまで嬉しくなってしまう。
見惚れてしまいそうになった龍人は、シェフズの姿を視界の端に収め、慌てて話題を変える。
「あそこの集団って何なのか知ってる?」
「んー、私にも分からないんだ。最初は警察が来てたから、何かの事件だとは思うんだけど。」
「そっか。街魔通り沿いで起きたのかな?何にせよ物騒だわな。レイラも気をつけろよ?」
「うん!龍人君もね!」
龍人とレイラは目を合わせ、笑みを交わす。
そして軽く別れの挨拶を交わすと、それぞれのすべき事の為に行動を再開する。




