8-6-3.夏休み、ルーチェの場合
コンコン
「どうぞー。」
ドアをノックしてから部屋にはいると、予想していたのと裏腹に、病室には誰も居なかった。
「あら?部屋を間違いましたかしら?」
「ん?その声はルーチェか!花しか見えないから、誰かと思ったよ。」
ルーチェは花束を少しずらして龍人の顔を見ると、微笑む。
「はい。今日が退院と聞いていたので、お祝いに来たのですが…誰も居ませんわね。」
「そうなんだよね。まぁ、皆予定があると思うから良いんだけどさ。」
「んー、そんなものなのですかねぇ?ところで、退院は何時頃になるのですか?」
「さっき医者には13時って言われたよ。あと…2時間はあるか。」
「あら、そうですの。そんなに長居しても、しょうがないですわよね。」
「こちらとしては、暇でくたばりそうだから、居てくれたら嬉しいけどね。」
ルーチェは人差し指を顎に当てると、少し上を見て考える。
ピコーンという音が聞こえて来そうな動作、指を立てた状態で手を頭の横まで上げる。
「そうしたら、私その時間に戻ってきますわね。丁度お買い物もしたかったのです。」
満面の笑みで告げるルーチェに、龍人は反論が出来ない。
「お、おう。」
「では後ほど~。」
行儀良く手を振ると、ルーチェはドアを開けて龍人の病室をさっさと出て行く。
久々のお買い物。
ルーチェはウキウキしながら魔法協会南区支部に向かう。
到着すると、迷わず魔法協会の中を歩き転送魔法陣の受付へと進んで行った。
受付には、龍人達が夏合宿の前にお世話になった受付のお姉さんが暇そうに本を読んでいた。近づくルーチェを見ると、嬉しそうに声をあげる。




