8-5-3.夏休み、遼の場合
コンコンと職員室のドアをノックし開ける。
「失礼しまーす。ラルフ先生はいらっしゃいますかー?」
職員室の中はガランガランだった。誰もいない。こんなので、防犯上大丈夫なのか?と危ぶんでいると、遼の視界に雑誌を持った手が見えた。
「おーう、遼!ここだここ!にしても、ラルフ先生だなんて珍しい呼び方するな!」
「他の先生が居るかも知れないのに、ラルフって呼び捨ては出来ませんよ。」
「ほんと、打算的な男だよなぁ。ま、いっけどね。で、何の用だ?」
「えっと、龍人がラルフにバイトの斡旋を頼んでるとかで。一緒にやろうって誘われたんですけど、何のバイトを押し付ける予定ですか?」
ラルフは大仰な身振りで、あり得ないという風に手を振る。
「おいおい。押し付けるってのは言い過ぎだぞ?俺だって普通にバイトの斡旋位出来るぞ。ま、今回はバイトの斡旋はしないんだがな。」
「え?じゃあ、バイトは無しでいいですか?」
「半分正解かな。龍人には魔法協会支部のギルドへの紹介状を渡すつもりだ。ま、紹介状が無くても入れるんだが、あった方が面倒な試験が全てパスだからな。魔法協会ギルドで、リハビリも兼ねろってトコだ。遼にも紹介状を書いてやろっか?」
「んー。まぁ、じゃあお願いします。」
「ん?なんか歯切れが悪いな。」
「ギルドって危険な依頼があるって聞いた事があるので…。」
「あー。それは大丈夫だ!そもそも、危険な依頼はランクの高い依頼に分類されっから。最初は低ランクの依頼しかないからな。ま、いい小遣い稼ぎになる程度の気持ちで良いんじゃないか?」
「そんなもんですかね。じゃ、取り敢えずお願いします。」
遼はイマイチ浮かない顔をしているが、ある程度は納得したようだ。
「はいよー。明日持って行ってやるから、それまで待ってろ。じゃ、俺はソロソロ読書すっから。また明日な。」
バルクはヒラヒラ手を出すと、机から本を取り出す。
遼は数秒、その本を見てしまう。しかし、ここで突っ込むとろくな事にならないのは見えているので、敢えてスルー。
「じゃあ、よろしくお願いします。」
遼は軽く頭を下げると、職員室を後にした。




