8-5-1.夏休み、遼の場合
時は遡り、龍人が入院している病室。火乃花が訪れる少し前。
「退院明日になったって本当?」
「おう!やっとだよ。ベッドの上で1日中寝転んでるのは、退屈すぎてやばいからね。」
「何言ってんの。よく分かんないけど、毎日誰かしら来てたじゃん。」
「まぁ…そうなんだけど、あれはなぁ。」
龍人が入院した当日から、お見舞いの客が耐えることが殆どなかったのだ。
上位クラスの面々が顔を出してくれたのは龍人としても嬉しかった。
しかし、よく分からない連中が現れたのも事実である。
「ダメだ。思い出したくも無いわ。」
「そんなに?」
「あぁ。あんな事やこんな事や更にはそんな事までな。ま、退屈しなかったのは事実だけど。」
「何だかんだで楽しんでんじゃん。」
「まーね。」
龍人と遼。以前から仲良くしていた2人は、互いに気を使い合う事もない。その為か、病室には至って穏やかな雰囲気が漂っていた。
「あ、そうだ!遼に頼みたい事があったんだ。」
「なに?」
「俺さ、この入院で貯金が完全にスッカラカンなんだよね。でさ、ラルフにバイト先の斡旋頼んでるんよ。そのバイト一緒にやんない?」
「バイトかぁ。いいけど…なんのバイト?」
「知らん!」
遼は飽きれた様にため息をつく。いや、実際に呆れているのだが。
「変なバイトじゃないよね?」
「それも知らん!」
「はぁ。じゃ、今からラルフにバイトの内容を聞いて来るよ。」
龍人が大袈裟に驚くフリをする。
「えっ!?俺、暇で倒れちまうよ。」
「しーらない。じゃ、また後でね。」
遼はさっさと立ち上がると、病室のドアに向かった。




