8-4-4.夏休み、スイの場合
スイの背中を嫌な汗が流れる。このままでは、バルクに「恋に悩む男」という印象を持たれてしまう可能性がある。
そんな印象、学院におけるスイの行動とかけ離れすぎている。そんなイメージを持たれるのは、心外の一言に尽きる。
どうやって弁明するか。スイは全力で頭を回転させるが、上手い言葉が出てこない。
そうしている間にも事態は勝手に進んでいく。
「こーゆー本を頼むってことは、スイって恋愛に興味あんのか?」
バルクから発せられる素朴な疑問。
しかし、そんな疑問ですらスイを焦らせるのには十分だった。
「待てバルク。お主は誤解している。」
「ん?恥ずかしがるなって!誰でも興味はあんだから!」
バルクはニコニコの笑みを浮かべる。
「いや、そもそもだ、これを頼んだのは我では無い。これを見ろ。」
バルクは何としても誤解を解くために、ラルフからの手紙を見せる。
その手紙をマジマジと見つめるバルク。
(これで変な誤解はされないはずだ。)
それはスイの希望的観測に過ぎなかった。スイよりもラルフと関わり、いじめられてきたバルクは、ラルフの勘の良さを身に染みる程分かっていたのだ。
「なるほどなー。ってことは、ラルフはお前が恋に悩んでるって思ってるんだろ?実はお前自身気づいてないだけじゃねぇの?」
バルクの指摘に、スイは一瞬だが硬直する。その変化を近接戦闘を得意とするバルクが見逃すはずも無かった。
「お!図星じゃねぇか?誰だよ誰だよ?」
「おい、人の話を…。」
「あ、もしかしてさ、上位クラスのあの娘か?確かにかわいい…。」
「おい。」
スイから冷たく低い声が発せられる。その目は冷たい怒りに燃えていた。
「あ、怒っちゃった?」
ははは。と乾いた笑い声をあげるバルク。
スイはバルクに背を向けて、壁に向かって歩く。その先の壁には3本の日本刀がかけられていた。
その1本を掴むと、シィィィという音を立てながら刀身を引き抜いた。
「ちょい待て!ちょい!」
「問答無用。」
スイが刀の切っ先をバルクに向ける。
「うお!悪かった!」
バルクは大声で謝ると、スイの自宅から全力で逃げ出した。
スイは家の中でため息をつくと、刀を壁に戻す。
そして、テーブルに置かれた本との睨めっこを始めた。
果たしてスイは読むのだろうか?




