8-3-3.夏休み、バルクの場合
バルクはシェフズの後ろ姿を見送ると、やれやれといった感じで口を開く。
「相変わらず豪快なおっさんだよなぁ。で、レイラも何か押し切られて働かされてるのか?」
「ん?違うよ~。ちょっとシェフズさんと約束して、それで働かせてもらってるの。今日始めたばっかだから、覚えるのが多くて大変だけど、楽しいよ!」
「まじか!てっきり強引にそんな話に持っていかれたのかと思ったよ。」
バルクがそう思うのも無理の無い話である。
街魔通りでの魔力蓄積機の暴走事件の折、龍人や遼と一緒に延々と店の片付けを手伝わされたのだから。あの時は遼の軽はずみな一言がキッカケとなった。今回も何かレイラが誘導されて、働くことになったのかと思ったのだが、杞憂だったようだ。
バルクはレイラと少し話しながら、何気なく時計を見て青ざめた。
「やべぇ!こんな時間じゃんかよ!このままだと時間までに配達が終わらねぇぞ。わりぃ!レイラ、また今度な!」
「うん。バルク君も頑張ってね!」
レイラは小さく手を振りながらバルクを見送る。陽の光を浴びて、レイラの耳の辺りがキラリと光るが、もちろんバルクは気づかなかった。
バルクはその後、街魔通りの配達を20分程で済ませ、午前中に荷物を運んでいた住宅地域から、街魔通りを挟んで反対側の住宅地域への配達を開始する。
荷物の残りは14個。
あと40分もあれば終わる計算だ。住宅地域は、所狭しと家が並んでいるため、配達する順番を間違わなければかなり早く配り終える事が出来るのだ。
やや日が傾きかけた午後3時。
バルクの少し疲れ気味の声が住宅地域に響き渡る。
午後3時40分。
バルクは1つの荷物を残し、全ての荷物を配り終えていた。
「ん~と、この荷物はどこだ?…?あ!やべっ!完全に通り過ぎてんじゃん!あのちょっと独特な家か。しかも…時間指定を大分過ぎちまってる。こりゃぁ、謝るか俺。」
バルクが居るのは、住宅地域の最南端辺り。荷物の届け先は住宅地域の最北端辺り。完全に配達ミスである。
バルクは北に向けて、全力ダッシュを開始した。




