8-1-7.夏休み、火乃花の場合
龍人と火乃花の会話が落ち着いた所で、コンコンと病室のドアがノックされる。
「ん?だれだろ。どうぞー。」
龍人が返事をすると、少し控えめにドアが開かれる。
「あの、失礼します。龍人君?」
その声は、最近龍人が恋心を抱き始めた人物だった。
「レイラか!来てくれたんだな。サンキュー!」
龍人の声が少し弾んだものとなる。本人はほとんど意識をしていないのだが。
レイラは、静かにドアを閉めるとベッドに近づいて来た。
「えっと、これ良かったら!」
レイラが両手で差し出した籠には、大量の果物が積まれていた。
その量に圧倒される龍人と火乃花。
「あ、ありがとうレイラ。」
「レイラ…ちょっと多すぎない?」
火乃花の突っ込みに、レイラは照れ笑いの様な表情を浮かべる。
「お見舞いに行くって果物屋さんで言ったら、沢山買わされちゃって。やっぱ…多すぎたよね?」
レイラは話しながら悲しそうな表情に変わっていく。
その変化に、龍人が焦る。
「いや!嬉しいよ!レイラありがと!レイラも座んなよ!」
「あ、それがね、これから学院に行かなきゃなんだ。私、1人暮らしで奨学金を貰ってるから、その後期分の手続きをしなきゃいけなくて。」
「そっか…。俺、明日退院だからさ、夏休み中に遊ぼうな。果物のお礼もしなきゃだし。」
レイラは龍人の誘いに顔を輝かせる。
「うん!ありがとね。じゃ、また来るね!」
「あ、私も一緒に学院に行くわ。」
「あれ?火乃花も用事あんのか?」
「えぇ。特訓よ。」
龍人は大袈裟に感心する。
「はぁあ。流石は火乃花だな。うっかりしてると置いてかれそうだわ。…って、待て!」
龍人がいきなり火乃花とレイラを止める。
2人は、はてなマークを浮かべながら龍人を見た。
「俺、結局暇暇じゃん!」
「それはしょうがないわね。レイラ、行くわよ。」
火乃花はレイラの腕を掴むと、ズイズイと歩き始めた。
レイラは龍人に手を振りながら、火乃花に引っ張られて病室の外に消えて行った。
バタンと閉まるドア。
シン
とした病室で龍人の独り言。
「暇だわ。」




