8-1-4.夏合宿、火乃花の場合
病院の中は静かだった。まぁ、病院なのでそれが普通ではあるのだが。
入り口から入って正面に受付があり、その左右には長い通路がある。受付の前には長椅子が何脚もならんでいる。今は数人しか座っていないが、混雑する時はこの椅子に人が所狭しと座るのだろう。
火乃花は真っ直ぐ受付に向かう。
「すいません。高嶺龍人君の病室に行きたいんですけど、教えてもらえませんか?」
「あら、こんにちは。高嶺龍人君ね、ちょっと待って。」
受付のお姉さんはパソコンのキーボードを高速で叩く。数秒で龍人の情報を見つけたようだ。
「高嶺龍人君は401号室ね。右側の通路のエレベーターで上がって、降りたら右側に進めばあるわよ。」
「ありがとうございます。」
火乃花は軽くお辞儀をすると、エレベーターへと向かう。歩き始めると、後ろで受付のお姉さん達が話すのが聞こえた。
「401号室の高嶺龍人ってホント人気よね。ここ1週間ずっと誰かきてるわよ。」
「2日目辺りはピークでしたね。まさか個室に入らない位のお見舞いが来るなんて、思いもしませんでしたよ。」
「あのイケメンだししょうがないんじゃなぁい?性格もザックリしてていい感じだし。」
「あれ?ちょっと惚れちゃってる?」
「え?ないなぁい。ちょっと多めに病室に顔を出す位よ。」
「あれ?それ私もやってるー!」
女性看護師たちのキャッキャとした話し声を聞きながら、エレベーターのボタンを押す。
(あいつ、あんな大怪我しておいてなにやってるんだか。躊躇ってた私がバカみたいじゃない。)
少しだけ気持ちが楽になった所で、エレベーターが到着した。




