8-1-3.夏休み、火乃花の場合
家を出た火乃花は街魔通りを歩いていた。街魔通りの中央には街灯が一定間隔で並び、その街灯同士の中央には街灯が光るための魔力を蓄積する魔力蓄積機が並んでいる。
入学した頃に龍人と遼、バルクが魔力蓄積機の暴走に巻き込まれた事件があったと聞いてはいるが、そんな簡単に暴走するものなのかと、今でも思ってしまう。
街魔通りは、魔法街南区にとって重要な通りである。生活に必要なものは殆ど全て、この通り沿いで手に入れる事が出来る。言い換えれば、街魔通りに行かなければ手に入れられない。とも言える。
その為、街魔通りはいつでも人で賑わっている。余程の事がない限り、街魔法通りが閑散とする事はない。
もちろん、灼熱の太陽が地面を焦がし、体の内側からどんどん水分を奪う様な暑さだったとしてもだ。
「ホント暑いわね…。」
火乃花は手を翳し、太陽を仰ぎ見る。
周りには主婦から学生など、多くの人々が歩いていた。夏休みという事もあり、学生の数が何時もより多い。あちこちで楽しそうな笑い声が響いている。
店先には、納涼セール、なんて文字で安売りしている店も多いのがこの時期の特徴だ。ちょっと寄り道をして覗いてみたい気持ちもあるが、まずはやる事を済ませる為に火乃花は真っ直ぐ歩き続ける。
街魔通りを抜けると南区の北側へ到着する。役所などが立ち並ぶ地域だ。
夏合宿の準備をする為に訪れた、魔法協会支部があるのもここである。
その一角にある病院が、火乃花の目指す先だ。その病院に龍人が入院しているのだ。
白い病院の外観を眺め、火乃花は少しの間道路上に立ち続ける。
(ここで悩んでてもしょうがない…っか。)
火乃花は意を決すると、病院へ足を踏み入れた。




