7-7-40.夏合宿最終日
遼は龍人を抱えたままラルフへと視線を向ける。
「あ…。龍人が…。」
遼の呆然とした様子を見たラルフは、すぐに2人の傍に走り寄った。そして龍人の状態を確認すると、目を見開き、厳しい顔つきになる。
「マジか…!刺されてんのは…一箇所だけか。けど、こりゃあ完全に貫通してるな…。血が流れ過ぎてる。脈は…くそっ!すげぇ弱いじゃねえか!遼、龍人を寄越せ!傷だけならまだしも、ここまで衰弱してたら俺でも厳しい!街立魔法学院に連れて帰る!」
ラルフは龍人の体を受け取ると、街立魔法学院がある次元へと転移していった。
残された遼と火乃花を静寂が包む。
少しした後、遼が口を開いた。
「火乃花、龍人に何があったの?」
「ん…。」
火乃花はポツポツと説明を始める。
「私と龍人君で勝負をしてたの。そしたらフードを被った人が襲ってきて…戦ったんだけどね。最後は私が刺されそうになったのを龍人君が守ってくれて…でも、龍人君が刺されたわ。それでフードの奴が、生きていたらまた会おうって言って、龍人君から剣を抜いたのよ。そのまま、歩いて消えたんだけど…私には追う事すら出来なかった。追いかけたら殺されるって思っちゃったから。龍人君は命懸けで私を守ってくれたのにね…。」
火乃花の瞳から涙が流れる。
「火乃花…。」
想像以上の事態が起きていた事に、遼は言葉が出てこない。こんな時、なんて声を掛ければ良いのだろうか。
服の袖で涙を拭った火乃花は、遼に向けて小さく呟いた。
「わたし、もうこんな思いはしたく無いわ。もっと、もっと強くなってみせるから。」
火乃花の中に芽生えた小さな小さな意思。
今までは、自身のために強さを求めていた彼女が、初めて他人の為に強さを手に入れると決めた瞬間だった。




