7-1-12.夏合宿1日目
龍人の姿が見えなくなってから、火乃花は島の風景を1人で眺めながら思考する。
(お父様の書斎で見たあの文書。地球と狭球。本当に龍人君は関係あるのかしら…。別の星から来たとは言ってたけど、その星ってどこなのかしらね。)
何気無く龍人の姿が消えたあたりをボンヤリと眺める。陽が沈み、冷めた風が吹き始めていた。
(寒くなってきたわね。私も帰ろうかしら。)
火乃花はピョンっと立ち上がった。
「よし!切り替え切り替え…と。明日から頑張らないとね。」
誰に向けるでもなく、独り言を呟くと火乃花はルーチェとレイラの3人で作ったコテージに帰るべく歩き出した。
少しして、2人が居た山頂に降り立った者が居た。
その者は辺りを眺め、前に垂れた髪を掻き上げる。後ろに流れる髪が月の光を浴び、銀色に輝く。
「高嶺龍人…。」
その人物は小さく呟くと、スッと音も無く姿を消したのだった。
一方、船上のラルフはデッキの上でこれから訪れる夜をどう乗り切るか考えていた。伸びをしながらふと顔を島の方に向ける。
(ん?今何かの気配がしたかな?)
鋭い目付きで島を見る。もし外部の者が入り込んだのであれば、早急に対応する必要がある。一応…この夏合宿の内容は街立魔法学院以外の人には秘密となっているのだ。
探知結界を島の方に伸ばそうとした時だった。いきなり船内へのドアが開く。
「そろそろ懲りたかしら?中に入る?」
そんな優しい声を掛けるのは、ドア枠に肘をつきながら悩ましいポーズを自然と取るキャサリンだ。
「おぉー!持つべきは優しき同僚だな!」
ラルフは船内に飛び込む。しかし、何故か船内へのドアの部分で躓いてしまう。その先には…。
幸か不幸かラルフの顔に柔らかい感触が伝わる。と同時に、後頭部に強い衝撃。
軽い脳震盪を起こし横たわるラルフをキャサリンは船外に蹴飛ばす。そして容赦無く閉まるドア。
「ちょ、まっ…!今のは不可抗力…」
ピシャァン
ラルフ感電。合宿1日目の夜は何事も無く更けていく。




