2-7-4.授業
その男は腕を組んで不敵と表するのが相応しい顔で話し出した。
「さっき遼と話しててよ、いつも不意打ちをすんのに全然当たらないって聞いたもんでさ。本気でやれば当たるだろって話になったわけよ。そんで気が緩んでそうな教室に入る瞬間を狙ったんだけどなー。ま、それでも当たんなかっけど。」
そう話す男は赤髪がツンツンに立ち、レザージャケットを羽織り、腰回りにはシルバーアクセがジャラジャラ着くという、いかにもヤンキーの様な格好をしている。新入生なのだから新入生らしく制服を着ればいいのに。なんて思うのは龍人だけなのだろうか。
その男が話した内容は龍人としては分からなくもないが、入学初日に顔も見た事が無い相手に仕掛けるのはどうなのかと思ってしまう。正確に言えば仕掛けるようにけしかけた。だが。
龍人は一応抗議をする。
「それにしても、いきなり教室に入った時にやんなくてもいいじゃんかよー。元気に挨拶しようとした俺の爽やかな心を踏みにじりやがって。おい…ツンツン!名前はなんだし!」
「はは!お前面白いな。俺の名前はバルク=フィレイアよろしくな!」
「よろしくな!じゃないっしょ。人を使わないで自分で来いって!」
「俺は無駄な労力は使わない主義でな。」
盛大に溜息をつく龍人。何か馬鹿っぽい雰囲気を感じるバルクだが、いまいちキャラが掴めない。入学早々面倒臭い奴に絡まれた感が否めなかった。
(もーやだ。面倒すぎるわこいつ。)
頭を掻きながら呆れた目でバルクを見ていると後ろから声を掛けられる。
「あの…高嶺君、大丈夫?」
そう心配してくれたのは、一緒に教室に来たレイラだ。いきなり始まった攻防に驚いたのか、まだ教室に入れないでいるようで、廊下からこちらを覗いている。
「あ、レイラ。もう攻撃とかは無いはずだから大丈夫だよー。」
龍人が声をかけると、レイラは安心した表情を浮かべながら教室に入ってきた。
「おぉ!ちっちぇーなー!ちっちぇーよな?ちっちぇー!」
レイラの身長の低さに速攻で反応するバルク。「ちっちぇー」を連呼しながらレイラに近寄ると、頭をポンポン叩き出した。
「こりゃぁやべぇな!鞄に入るんじゃないか!?」
「鞄には入らないですよー。そこまでちっちゃくないですもん!って、きゃっ!」
バルクはいきなりレイラを持ち上げようとし、レイラが悲鳴をあげる。 …が、抵抗虚しくレイラの足は床から離れてしまう。