6-3-15.追跡
あの時龍人が見たのは…昔の記憶。遼と共に魔法の練習に励み、穏やかに過ごしていた日々。
そして、すべてが変わってしまった日。その中心にいた男。
最近はあまり思い出す事はなかったのだが…。今再び思い出すだけでも、当時の様々な感情が込み上げてくる。
(ふぅ。落ち着け落ち着け…。それにしても、あれは何だったんだ?)
龍人が疑問に思うのは、走馬燈の後半に見た映像だ。
まず、知らない部屋にいた自分、そして部屋の外から聞こえた知らない人の…だが何故か懐かしい声。そしてベッドの上に置いてあった何か。重要な何かである事は間違いないのだが、その何かの部分だけは全く思い出す事が出来かった。
(そもそも、あれって俺の記憶なのかな。さっぱり覚えが無いし。それに、あの洞窟…さっぱり分かんないよなぁ。あんなに大勢の仲間と洞窟を探検した事はないし。んー…訳がわからん!)
色々と考えるのが面倒臭くなった龍人は、さっさと転送魔法陣へと飛び乗った。…転送の光が龍人の周囲を包む。
光が消えると、街立区魔法協会支部内の受付のお姉さんが立っていた。
「あら、お帰りなさい。中央区は楽しめた?」
「あー、うん。まぁまぁ楽しめましたよ。」
お姉さんは、龍人のやや曖昧な返事に何かを察知したらしい。
「ふふ。その反応だと何かあったみたいね。連れの3人はもう帰ったわよ。赤髪のえっと…ラルフにセクハラされてる子が、なんで全然こないのよ!って怒ってたから、明日気をつけてね。」
「げっ、マジすか。明日謝んないとなぁ。」
イイ友達を持ったわね。と、お姉さんはクスクス笑う。そして、次の利用客の対応へ移っていった。
龍人は帰路につく。
今日1日に起きた幾つかの事件。魔法街を巻き込む、大きな事件の予兆である事に気づくのは、これから暫く経ってからの事となる。




