6-3-8.追跡
現れては消え、現れては消えの連続。狐に包まれた様な気分である。
(どうなってんだよ。くそっ!)
ヒュン
ヒュンヒュン
突然周囲から大量の鉄針が飛来する。鉄針は龍人の防御壁に激突して弾かれる。しかし、今回は弾かれただけでは終わらず、鉄針は再度龍人へと向かい、防御壁を損耗させていく。
(まずい…!保たないぞ。)
止めどなく襲い掛かる鉄針に耐え切れず、防御壁にヒビが入り始めた。鉄針という細い見た目に反して予想以上の攻撃力だ。ここで龍人はやっと気付く。良く観察してみると、鉄針は防御壁の数カ所のみを集中して攻撃していたのだ。これだけの数の鉄針を正確に操る辺り、相手はかなりの手練と推測される。そして、防御壁に入ったヒビが少しずつ広がっていく。
そして…防御壁は鉄針の怒涛の攻撃に耐えきれず、ガラスの様に砕け散り、鉄針が龍人に突き刺さった。
鉄針は龍人の周りにも突き刺さり、その衝撃によって砂埃が舞う。少し経ち砂埃が晴れると、そこに龍人の姿は無かった。鉄針が突き刺さる瞬間、転移魔法で移動をしたのだ。
転移をして回避した龍人は建物の屋上で膝を付いていた。右脚太腿、左肩に鉄針が突き刺さっている。
「いってぇ…マジでヤバイな。」
鉄針が突き刺さった2ヶ所は既に力が入らない程の重症だ。動けずにいる龍人を追い詰めるかの様に、1つ先の建物の屋上にフードの人物の姿が現れる。
「さて、そろそろ死んでもらう。」
「くっ…待て!お前の属性はなんだ!?おかしな点が多すぎる!」
「ふん。そんな事も分からないか。星に引き籠ってる奴らは話にならん。死ね。」
フードの人物が右手を挙げると、建物の下にあった鉄針が宙に集まり融合する。そして巨大な薄い円盤の形を象った。円の周囲はノコギリの様にギザギザの刃になっている。…これが直撃すれば、というのは想像に難くない。
「じゃあな、少年。」
円盤は高速で回転を始めた。あれで龍人を真っ2つにするつもりだろう。電動ノコギリの様に凶悪な円盤は、静かに刃を回転させ続けている。…龍人は怪我により動く事が出来ない。出来たとして転移魔法による回避だ。しかし、痛みが龍人の集中力を鈍らせ、魔法陣の展開速度を著しく低下させていた。
フードの人物の手がまっすぐ伸び、それに合わせるようにして円盤が龍人に向かって飛ぶ。今の状態で避ける事はほぼ不可能。そして、円盤が当たれば…龍人はオモチャのように切断されてしまうだろう。
(俺の人生…ここまでか。)
龍人は諦め…ゆっくりと目を閉じた。円盤が飛来する音が次第に近づいてくる。
それは、とても長い時間に感じられた。1秒が1分であるかのような。永遠であるかのような長い時間。
走馬燈。死を覚悟したからであろう、龍人の頭にキィーンと痛みが走る。そして、龍人の視界には見覚えのある景色が映っていた。




