2-7-0.授業
翌日の朝。
龍人は家で魔法の調整をしていた。魔法陣が周りに現れては形を変え、新しい魔法陣を形成し消えていく。これは龍人がストックと呼んでいる作業だ。魔法陣の展開はストックが無ければ行う事が出来ない。故に、毎朝行うストックは龍人にとって重要な作業の1つになる。
もし、戦闘で魔法陣のストックが切れた場合、魔法陣を描くか、戦いながらストックを行わなければならないのだ。
ストックが終わると、愛用の劔の手入れも行っていく。
日常的に行っている作業の為、龍人の意識はこれから始まる学園生活の様々な妄想で占められていた。
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遼は愛用の双銃の手入れをしていた。布を使って外側を丁寧に磨き上げ、油をさす。美しい光沢を放つ双銃に刻まれた刻印を見つめた遼は、決意の篭った声で呟いた。
「必ず見つけるさ。」
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火乃花は家で秋刀魚の塩焼き、味噌汁、玄米、沢庵を食べていた。相変わらずの和食。そしてバランスを考えた献立である。
昨日の龍人と遼の会話を思い出しながら食べる目は真剣そのもの。同じテーブルについている両親も火乃花の雰囲気がいつもと違う事を感じ取り、声を掛けずに朝食を食べている。
少しばかしピリピリとした雰囲気が部屋の中に広がっていたが、火乃花はその事実に気づいていなかった。
そして箸を持った手が不意に止まり、火乃花は小さく呟くのだった。
「あの2人。本当にそうだとしたら離れるわけにはいかないわ。」
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クラウンは鏡の前で髪のセットをしていた。身だしなみを念入りに整えるのは男として当然の日課。と、クラウンは信じている。
(むむう。俺様の美しいくせ毛がいうことをきかん!クラス発表も納得いかないし、くそぉー!俺様の青春ライフ…絶対に掴み取ってやる!)
クラウンはクラス発表で中位クラスに配属されていた。ポイントもそこそこに稼いでいた本人は上位クラスに入るつもり満々だったのだが…。ヘヴィーが言っていたポイントが全てではない。という言葉が現実となって襲いかかった1人がクラウンである。
クラウンの苛立ちを表すように天然パーマはクルクルと踊り狂い、主人の言うことを全く聞こうとしなかった。
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街立魔法学院は新学期を迎える。新たな生徒が入学し、新たな風を生むのだろう。それぞれの思惑が交差する事で、思わぬ反応が起こり、誰しもが予想だにしなかった新たな道が開かれるのかも知れない。
その道の先にあるのは、希望か絶望か、創造か破壊か。
世界の命運が動き出した。