2-6-6.クラス発表後
街立魔法学院校長室。部屋の中いるのは校長のヘヴィー=グラムだ。その姿は裂けた股からイチゴパンツが覗く熊人形では無く、細身の体型に白髪の短髪、そして切れ長で伏目がちな目をした初老の男性だ。
ヘヴィーはドアの向こうから近づいてくるのを聞くと、校長らしく出迎えるためにデスクの椅子に腰かけた。
足音はドアの前まで来ると止まり、ノックの音が響いた。
「どうぞ。入るのである。」
ドアが開き、姿を表したのはクラス発表の時に校門前の広場に姿を現した金髪デブの男だった。
彼の名はラルフ=ローゼスと言う。ここに居る事で分かる通り、歴とした街立魔法学院の教師である。ラルフは部屋の中に入ると陽気に話し出す。
「ども!いやぁ、クラス分け試験のイベントも終わりましたね。これで明日から少しは楽が出来るってもんです。」
やっと解放されたと言わんばかりの様子でラルフは校長室の客人用ソファーに腰掛ける。その巨体に合わせて座った部分がぐにゃりと凹むが、そこは高級ソファーである。座っているラルフには何の不快感も与えない。
ひと仕事やり切っ様子のラルフにヘヴィーはついつい頬を緩ませる。
「ほほ。じゃが、今年の新入生は中々に面白い子が多いのである。君が担当する上位クラスは、己の力を知っていながらも隠すもの。己の力に全く気づいていないもの。気づいていると思い込んでいるもの。それら全ての生徒が一定以上の力を持っておる。今年は益々この学院が賑やかになりそうじゃないかの。」
「まぁそうですね。あとは、その中でも異質な何人かをどう教育するか。ですねー。ま、俺のやり方でやらせてもらうんで!」
「分かったのである。やり過ぎないようにするのである。もしかしたら、彼らはこの世界を変える人材になり得る可能性を秘めているのを忘れてはいけないのである。」
「はいはい。ま、気張らずに少しばかし焦りながらいきましょう。」
あくまでも自分のスタイルを貫く姿勢を窺わせる言葉だが、ヘヴィーはその点について言及したりはしない。その程度にはラルフの事を信頼しているのだ。
校長が出したお茶をすすりながら気楽に話すラルフ。校長は相変わらず、のほほんとした雰囲気のままだ。
(この世界を変える為の人材を育成するって立場は荷が重いねぇ。俺自身もその人材の一つの可能性もあるし。こりゃぁ、益々大変になるかもだな。)
気楽に話しているように見えるかもしれないが、ラルフも教師としてある程度の常識や覚悟は持ち合わせていた。これから起こりうる様々な事を考えると中々に気が重くなる。だが、やらない訳にはいかないのだ。
ラルフは複雑な思いを抱えながらも決意を新たにするのであった。




