5-4-17.特別戦
沸き起こる歓声の中、火乃花はポカンとした表情で立ち尽くしていた。あんな勝ち方をしたのに、観客が湧いている事に理解が出来ないようだ。
どうしたら良いのか分からず立ち尽くす火乃花の所へ、リリスが駆け寄って来た。
「はいっ。火乃花さん!これ、使ってね。」
そう言ってリリスが渡したのは、赤い色をしたクリスタルだった。
「これって…。」
「ん?クリスタルよ。炎属性のクリスタルだから、ほぼ100%の魔力を回復出来ると思うわ。ラルフとの試合頑張ってね。」
ここで火乃花は硬直した。
そう、優勝者がラルフと試合をするのを完全に忘れていたのだ。試合中にラルフが叫んでいた言葉を思い出す。
(…大衆の前で辱めを受ける気がするわね…。)
「あの、リリス先生。ラルフとの試合やりたくないんですけど。」
「ん?もうラルフ準備しちゃってるから、無理じゃないかしら?そろそろリングに来ちゃうと思うよ。早くクリスタル使って使って!」
火乃花がハッとリリスの向こう側を見ると、イキイキとした顔のラルフが腕をぐるぐる回していた。
やる気満々のラルフの表情に危険を感じた火乃花は慌ててクリスタルを使用する。炎属性の魔力が体に流れ込み、全身に行き渡っていく。
(炎属性のクリスタルは初めて使ったけど、回復力が凄いわね。)
火乃花が魔力を放出して消えゆくクリスタルを見ながら感心していると、ラルフがひと声叫ぶ。
「はい!対人戦トーナメント優勝者とその担任の特別戦開始!」
嫌らしい顔をしたラルフが満面の笑みで火乃花を襲う。…火乃花は、全力で逃げ回った。




