5-3-9.対人戦トーナメント準決勝
火乃花が召喚した火球は、今までのそれとは比べものにならない熱量だった。それによって周りの温度が一気に上がるに事で、火乃花の周囲が歪み始める。
(こりゃマズイな。直撃受けたら溶けるんじゃないか?)
圧倒的質量の火球を前にした龍人は、力技では勝てないと判断し、至近距離から高威力の魔法を当てる選択をする。直撃を受ける可能性の低さだけを見れば遠距離戦に持ち込むのがベターだが、攻撃を当てるという観点では近距離戦の方が有利だと判断したのだ。
龍人が風の魔法で移動速度を強化し、併せて無詠唱魔法で身体能力を強化した。2重の強化は体に多大な負担を掛けるが、瞬間的な爆発力は計り知れない。
そして、龍人が右に動こうとした時だった。次に足を出そうとした所に火球が直撃して龍人の動きを牽制する。直撃した場所は溶解し、ドロッとした液体へと変わっていく。
その威力に危険を感じた龍人は、後ろに飛び退こうとするが…今度は真後ろに火球が落ちた。偶然にしては直撃場所とタイミングが龍人の動きに合いすぎている。
(動きを読まれてる?召喚神の名前通りに先を読めるのか?)
思考時間を少しでも稼ぐために龍人は少し大袈裟に火乃花へ声を掛ける。
「火乃花!ちょっと強くなり過ぎじゃない!?」
「まぁね。プロメテウスの力で、今は真極属性【焔】だから。焔に関しては、絶対的に強いわよ。」
龍人が言ったのは動きの先読みに関してだったのだが、火乃花はあくまでも火球の威力のみに言及をする。そして、勝ちを確信したか…ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
何かの予備動作を感知したわけではないが、龍人は直感的に危険を感じて防御壁を展開した。次の瞬間、大量の火球が防御壁にぶつかる。
「ぐっ。くそっ。つえぇな。」
火球は防御壁に阻まれるが、その勢いを衰えさせる事なく圧力を掛け続け、熱によって龍人を追い詰めていく。その余りの高温に、防御壁すらも溶解を始めてしまう。
(マジか!?これだけの威力だと、内側に魔法障壁を展開してもふせげなさそうだし…。水魔法も蒸発する。炎魔法も勝てないとなると…。)
防御壁で耐えながら、少しの間思案する。圧倒的すぎる魔法の威力の差と、先読み(だろうと思われる)能力に、龍人は至近距離で攻撃を当てるのを既に諦めていた。
そして、たどり着いた答えが…
(よし。全力で逃げ回ってみるか。)
逃げの一手だった。




