5-3-6.対人戦トーナメント準決勝
火乃花の問い掛けに、一瞬だけ龍人の雰囲気が変わる。冷たい視線…雰囲気。思わず火乃花は身震いをする。
次の瞬間には、龍人の雰囲気はいつも通りに戻っていた。
(何…今の。気のせい…かしら?)
龍人は頭をポリポリ掻いて困った顔をしていた。あまり言いたくないという顔である。
「なんで剣を使わないかかぁ。それはね、あれだ。あの剣を使うと、相手が大怪我しちゃうんだよね。」
(いつも通りの龍人君ね…。)
「それじゃあ、今まで手を抜いてたって事にならないかしら?その剣を使った龍人と戦いたいわ。」
龍人は難しい顔をして考え込む。
(あの剣を使うと構築型魔法陣をめっちゃ使うんだよなぁ。ってか、剣の詳しい事は分かんないけど…構築型魔法陣を使って戦う事をある程度前提としてんだよな。…多分。ラルフには構築型魔法陣を隠せって言われてるし。んー、ハッタリかますしかないかなぁ。)
「ま、あれだ。俺の勝利が確定しちまうからさ、あの剣は無しでフェアに実力のみで戦おうぜ。」
この言葉に火乃花は怒りを覚える。例えどんな相手でも、全力で叩き潰す。それが火乃花が貫いてきた今までの生き方であった。そんな火乃花に、自分の方が強いと言い放ち、あまつさえ手を抜くと宣言されたのだ。当然、火乃花のプライドがそれを許すはずがない。
「君ってさ、私の実力を甘く見てないかしら。その剣を使わなかった事を後悔させてあげるわ。」
火乃花は焔剣を消し去ると、両腕を真横に伸ばす。炎が腕を包み込み、熱量だけを増加させていく。
「私の全力、喰らいなさい!」
火乃花は両腕を天高く掲げ、叫ぶ。彼女が本気で相手を倒すと決めた時のみ使う力を行使する為に。
「召喚、プロメテウス!」
炎が凝縮し、ひとつの形を成した。




