5-3-2.対人戦トーナメント準決勝
実況席でもラルフが賞賛の口笛を吹いていた。試合の様子を眺めるラルフは楽しそうに頭の上で手を組んでいた。
「やるねぇ!」
丁度このタイミングで実況席に入って来た同僚のキャサリンが、ラルフの様子を見て珍しそうに声を掛ける。
「あら、あなたが口笛まで吹いて褒めるなんて。そんなに良い戦いなのかしら?」
キャサリンは眼鏡の縁を人差し指で上げると微笑む。美人のキャサリンが微笑むと1枚の絵画のようであるが、実際の性格はかなりキツめである事を知っているラルフは決してトキめいたりはしない。というか、ガラスの向こうの試合の様子を注視していたので見ていなかった。
真後ろにキャサリンが来たのを察知ラルフは、顔を上に向けてキャサリンを見る。
「よぉ、下から見るとまた素敵なシルエットだな~。顔が隠れて見えないぞ。」
「あんたねぇ…。」
キャサリンはこめかみに怒りマークを浮かべると、強く握り締めた右手を垂直に突き降ろした。鈍い音が響き、ラルフはそのまま後ろ向きに椅子ごと倒れ、後頭部を床に強打する。
「いってぇっ…!お前が俺の直ぐ後ろに立つのがいけないんだろ!」
ラルフはキャサリンの足元に倒れ、後頭部を抱え、涙目になりながら訴える。
「そんな事言ったら、あたなの近くに立つ女性は全員危険じゃないの。」
「それは強ち間違ってないな。」
キャサリンは額に手を当て、溜め息を付く。大袈裟にも見える動作だが、本人は本当に頭痛を感じていたりもする。
「はぁ、本当にあなたは危険人物よね。リリスがあなたの奥さんなのが未だに信じられないわ。それより、準決勝で何か面白い事があったんでしょ?」
「…あぁ。高嶺龍人なんだが、あいつ相当やるぞ。光球を周りに浮かべながら、空間転移をして、転移先で光の屈折を操って火乃花から姿を眩しやがった。ほぼ同時に3つの魔法を制御してやがる。更にだ、その間に光球の威力を個別に強化して、レイを放ってやがる。センスがずば抜けてるな。」
ラルフはキャサリンの足元で、ニヤつきながら説明する。その視線の先にはニーソ…そしてスカートの中の…。
ラルフの視線に遅ればせながら気付いたキャサリンのヒールがラルフの額に突き刺さった。
「いつまで見てるのよ。この変態。それにしても、1年生でそこまでやるなんてねぇ。確か属性【全】だったかしら?それにしては、制御能力が凄いんじゃない?他に秘密があるのかしらね。」
キャサリンは額から血を噴き出しているラルフを意味深な目で見る。
「さぁな。自分で確かめてみたらどうだ?」
ラルフはゆっくりと立ち上がると、椅子を直して座る。キャサリンもラルフの血跡を避け、隣の席に座った。
「ふふっ。じゃぁ、今度あの子を借りてみようかしら。」
少しばかし妖しい笑みを浮かべながらキャサリンがリングへと視線を向けると、龍人が攻撃に移ろうとしている所だった。




