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それがサンタの馴染み方  作者: りるく
1/1

サンタ、入学する。

 割と最近、世界が狭くなった。

 狭くなったというか、世界が少しだけ壊れてしまった。

 俺達の住んでいた世界が突然消失して、俺達は知らない土地で生活する事を強要された。

 なんて、お決まりの中二病ファンタジー小説の冒頭みたいな書き出しをしてみたのは良いんだ。これを書いている俺の筆もノリに乗っている。

 だがどうだろう、ここで先程の世界の消失というものがどういったものなのかなんていう説明をしておいた方が、この先の物語に読者はすんなりと入りやすいんだろうか。それとも物語の後半までお楽しみ、としておいたほうがいいんだろうか。

 うん、後者の方が面白そうだ。俺は作者なんだから、読んでる側の気持ちなんて知ったこっちゃない。

 それにこの先の物語には、世界が消失したなんていう現代にありがちな設定なんて、ほぼ必要無いのだから、諸々をすっ飛ばして俺達がコッチの世界に足を踏み入れたシーンから物語を始めても問題は無い。

 この先、必ず知っておかなくてはいけない事といえば。

 サンタクロース。

 超能力者。

 アンドロイド。

 トイレの花子さん。

 人間としての線引きから1歩外に出た4人が主人公の超絶日常ファンタジーが、グダグダと何話にも渡って展開されるということだけである。



~入学とは永遠の試練~

 四季箱学園。

 どこかにある、どこにでもあるような学園に今日、一気に4人の生徒が転校してくる。

 いやまぁ、それがつまり俺達なわけなんだが。

 四季箱学園に転校するにあたって、俺達は出来る限りの情報収集を行った。正体がバレては色々とまずいため、俺達4人の中で最も科学的要素に強いアンドロイドが、その驚異の検索力を用いて四季箱学園の重役が扱うコンピューター端末にアクセスし、そこから四季箱学園の情報を引っ張りだそうとした。

 もちろん表向きの情報はいくらでも収集出来るので、俺達が望んだ情報は裏の方だった。

 つまり、俺達にとって障害となる情報。

 そういった情報どれ程握っているかによって、俺達の今後は変わっていく。

 普通の人間に、俺達の正体がバレるわけにはいかない。

 しかし、人間の科学文化が想定していたよりも進んでいたのか、それとも四季箱学園のみが特別だったのか。とにかく、アンドロイドが取得出来た裏情報のようなものは、たったの1つだけだった。



『中途半端な覚悟で、四季箱学園に入学してはならない』



 その、ある意味挑戦的とも取れる警告文に、俺達4人は揃って首を捻ったものの、それ以上の情報が取得出来ない以上、深追いは出来なかった。

 どうせ転校当日になれば、警告文の意味も全て分かるんだろうから。

 なんて考えが、すでに間違いの始まりだったのかもしれない。

 で、詳しい事は何も分からないまま、転校日である6月25日の四季箱学園1年3組教室前に、俺達は立っている。

「これからこっちの生活に馴染まないといけないと思うと、それなりに緊張するもんだな」

「サンタは1年に1回だけ人間界来てるんじゃないの?つっても、私も力が発現する3歳までは人間界にいたけどさー。物心ついてないから覚えてないし。その点サンタは違うでしょ?」

 サバサバした性格だという事がすぐに分かる口調でこちらに疑問を投げかけてくるのは、サイコキネシス・テレパシー・テレポート等、ありとあらゆる超能力を行使する事が出来る少女、いわゆる超能力者だ。

「クリスマスの日はほら、別に子供達と話をするわけじゃないから馴染む必要も無かったけどな。ここじゃあそうはいかないだろ?初対面の人間達と仲良しこよし生活しなくちゃならないんだ。緊張だってするさ」

「私とはすぐに馴染んだじゃないか」

「お前が催眠術使って無理矢理馴染んだんだろうが」

 四季箱学園指定の制服がしっかりと着用出来ているかを再確認し、転校生としての最終チェックを終える。

『わたくし達が四季箱学園1年3組の生徒様と級友になれる確率、2%』

「おいアンドロイド、いきなり俺の意気込みをへし折る発言してくれてんじゃねぇよ」

 初台詞からいきなりネガティブ発言をかましてくれやがったコイツが、四季箱学園について色々と調べてくれようとしたアンドロイド。いつも淡々と無表情に会話するもんだから、本気か冗談かを理解するのに苦労する。

 けどまぁ、今のはたぶん冗談だろう。俺達が友達を作れる確率が2%だなんてありえないからな。

 一応、アッチの世界じゃあ友達は多い方なんだぜ?

『サンタクロースが男子生徒の皆様からハブられる確率、71%』

「妙にリアルな数字を出すな!不安になっちゃうから!」

 もしかしたら、冗談ではないのかもしれない。

 教室の中では、同時に4人も生徒が転校してくるという知らせを担任教師から受け、1年3組の生徒がざわついている気配がする。

 あと少し。あと少しで新たな生活が始まる。

「ねぇお兄ちゃん・・・。ねぇ」

「あ?なんだよ花子。お前も俺には友達が出来ないーとか、厳しいこと言うつもりか?」

 コイツは花子。って言っても分かりづらいか?いわゆるあれだ、トイレの花子さんだ。

 赤と白と黒の3色があれば想像出来てしまう、なんとも簡易的な幽霊様だ。

 サンタクロースである俺は赤と白の2色構成なんだけどな?

「トイレ。トイレ行きたい」

 赤いスカートをチョンと摘まんで、内股になりながらモジモジする花子。実は結構前から我慢していたと見える。

 だがしかし、今はあまりにもタイミングが悪いだろう。

「トイレくらい、あとちょっとの間我慢してろよ。挨拶が終わったら行けば良いだろ」

「今。今行きたいの」

「いやでも・・・。だあぁ分かったよ、チャッチャと行ってこい。ほら、ダッシュ!」

 担任の先生には、そうだな・・・。花子は少し遅れてきますとでも伝えれば大丈夫か。などと考えながら、俺は再び教室と廊下を隔てる白いドアに目を向ける。

「・・・ねぇ」

 目を向ける。

「お兄ちゃん・・・」

 目を―――

「お兄ちゃんってば」

 向け―――

「お兄ちゃんっ!」

「何だよ!もういい加減俺の集中乱すのやめてくんない!?」

 苛立ちながら目線を花子に移すと、花子はプルプルと迫りくる尿意に耐えながら、泣きそうな声で史上最大の問題を告げてきた。

「人間界の学校のトイレって、お化けが出るから怖い・・・」

「お前がそのお化けだよ!」

「白いシャツに、赤いスカートでおかっぱ頭の女の子がいるらしいの。怖い・・・」

「お前の私服だよ!俺が毎日洗濯してるお前の私服!シャツとか色移りしないように気を遣ってんだぞ!」

 最後の方はただの愚痴になってしまったが。いやはや、まさかまさかの事実が発覚した。

 この花子、どうやらトイレの花子さんが怖いらしい。自分自身の恐怖に、打ち震えているらしい。

 そう書いてみるとなんだか格好良いのかもしれないが、その実ただのアホの子である。

 そんな会話をしている間にも、花子ダムの決壊は近づいていく。

「お兄ちゃん、もう・・・限界。出ちゃ、う。・・・あ、あ」

「待て待て待て待て!あと10秒我慢しろ。ちゃんとついて行ってやるから!おいお前ら、どっちか花子をトイレに――――――」

 ダム決壊寸前の花子をたしなめ、女である超能力者と女性方に設計されたアンドロイドに助けを求める。

――――――が。

「あ、私達呼ばれてるから先に行ってるわねー」

『ア〇モ的入場をした方が、皆さんに喜ばれる確率、80%』

 面倒事を察知した2人は、そそくさと1年3組の教室に入っていってしまった。

 もちろん、俺と花子は放置で。

 転校生の登場に、拍手喝采を浴びせる1年3組のフレンドリーな生徒達。

 もちろん、俺と花子は放置で。

「くっそおおおお!」

「お兄ちゃああああん!」

 結局、俺は花子を抱え上げてトイレへと走った。なんなんだ今日は、12月25日はまだまだ先だろうに、何故俺はこんな謎のデリバリー業務を請け負っているんだ。

 せっかく1晩かけて考え抜いた転校生の挨拶も全て無駄となり、俺はアンドロイドの提示した71%という確率を、上昇させることになったのだった。

どれくらいの話数になるか分からないで書き始めましたが、ちゃんと完結はさせるつもりなので、よろしくお願いします。今回は登場人物紹介になっちゃったなぁ。

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