第5話 Where is the fate ? -April-
更新遅くなってしまいスミマセンでした!
エイプリル編スタートです。
『エリザベス、愛してる』
『……私も同じ気持ちよ、ロバート。でもやっぱり私たちは……』
『関係ないじゃないか! 家や身分が何だと言うんだ。あの夢のような日々を忘れたのかい? 』
『いいえ、忘れられるはずないわ! 』
『だったら僕に付いて来てくれ。必ず僕が君を守るから……』
読む本はハッピーエンドの恋愛小説。そんなものだけでわたくしの夢は発酵させたパンの如くモコモコと膨らんでいくのです。
「ほお……」
恍惚とした溜息が思わず漏れ、わたくしは期待通りの展開に満足と安堵感を覚えながら本を閉じました。
ロマンチックな旅から舞い戻った後しばらくは、甘く心地良い痺れが体を包み込むのです。だってわたくしの目の前には、ロバートとエリザベスがひしと抱き合う姿がまだはっきりと見えているのですから。
ああ、こんな奇跡のような恋がしてみたいわ!
「……ゴホンッ」
そんな薔薇色の世界を一気に吹き消すかのような、咳き込む声。
容赦なくわたくしを現実に引き戻したのは……
「あら、お兄様ごきげんよう。ノックもせずにレディの部屋に入るなんて紳士のすることではありませんわよ」
「何度もノックしたんだが、あいにく妹がつまらない妄想に取り憑かれて一向に返事がなかったのでね」
兄の冷やかしにわたくしは顔が熱くなりました。“つまらない妄想”だなんて酷いわ。
「またジュリアン・ハワードの小説かい?」
「彼女は世の女性を虜にする文才の持ち主ですわ。お兄様のような現実主義な方には理解できないでしょうけど」
「その点については私も同意するよ」
兄は私が読んでいた本を手にしながら“やれやれ”という顔をしました。人の趣味にそんな顔をするなんて失礼だと思いません?
わたくし、すぐさま兄の手から本を奪い取ってやりましたわ。
“ジュリアン・ハワード”は、今や超売れっ子の女流作家です。
心理描写が巧みで世の女性たちの共感を集めているのですが、公への露出が少なく彼女の素顔には謎が多いのです。
最近、お遊び程度に小説を書き始めたわたくしにとっても憧れの存在なのですわ。
「お兄様ったら、そんなことを仰るためにわざわざここへ?」
「いいや、お前に伝言だ。今夜約束をしていたミス・マシューズだが、貝に中って体調を崩したそうだ」
「まあ、それで容体は?」
「幸いにも大事無いそうだ。それで、お前だけでも芝居を楽しんで来てほしいとの事だ」
「それは残念ですわ……」
早速、友人へお見舞いの手紙をしたためようとペンを走らせるわたくしに、兄はさらに続けました。
「今夜から天気が悪くなるそうだから、早めに帰るように。それと、変な男にも気を付けること」
「え?」
わたくしはペンを止めました。
「もし誘われても、安易に男の後を付いて行くんじゃないぞ。夢物語なんて本の中だけなのだから」
「それは、もちろん男性には気を付けますけれど……時と場合によりますわ。わたくしは“運命”というものを信じていますから」
「出会い頭でぶつかって恋に落ちるとでも? いい加減、現実の男に目を向けるべきだね」
「……」
わたくしを心配してなのか、小馬鹿にしてなのか、どちらにせよ、そんな遠慮のない言葉を残して兄はわたくしの部屋を出て行きました。
もうわたくしは幼い少女ではないですし、兄があんな事を言うのは分かります。でも運命を信じるだけで、毎日が来るのを愛おしく、そして待ち遠しく感じるのです。
だってそれが巡ってくるのは、明日かもしれないし、明後日かもしれないし、1年後かもしれない。
いえ、もしかたら今日なのかもしれないのです!