第4話 Like a game -Stephen-
ホーキンス一家が帰った後のサロン。
「一体何なのだ、あの娘はっ」
苛立ちを抑えきれない私は、部屋の中をウロウロウロウロ。
エイプリルとフランシスはそんな私をどこか面白おかしく見つめていて、それがさらに私の神経を逆撫でする。
「少しは落ち着いたらいかがです? 大嫌いだと言われてショックでしょうけれど」
「でもメリルさんて、確か兄さんよりも5つ年下だったよね? 勇気あるなあ」
「礼儀を弁えずにあの場で私に恥をかかせるのが勇気か?」
天使の仮面の裏側には、手厳しいことを平気で口にする勝気な娘が潜んでいた。
だが彼女の持つ透明感や美貌に心を奪われたことも事実なのだ。それがまた私に口惜しさをもたらすのだが……。
「あら、もしかしてお兄様にとっては初めての失恋なのでは?」
「それは違うな。第一に私は彼女のことなど何とも思っていない」
そう、これは恋とは違う。毛色の違う女に物珍しさを覚えただけだ。
「ついに、お兄様が女性に跪く時が来るのかしら」
「……断じてそれはない」
自分があの娘に膝を折っている姿など想像もできなかった。
◇
こうして、あの娘とは2度と関わるまいと私は思ったのだが、彼女との再会は意外にもすぐに訪れた。
ホーキンス氏が貴族や資産家を招いて夜会を開いたのだ。
私は「行きたくない」と十数年ぶりに駄々をこねたのだが、長男である自分が行かないわけにもいかず、不貞腐れながらも馬車に乗り込むしかなかった。
両親と共に華やかに彩られた会場に入ると、すぐに私の取り巻きのご婦人方に声を掛けられた。
「しばらくお会いできなくて寂しかったですわ」
「私もです。きっと会いたいと強く願ったから、神が今日という日に引き合わせてくれたのでしょうね」
「まあ、ステファン様ったら~」
まるで私を崇拝しているかのような瞳で見つめられると、にわかに自信がみなぎってきた。これが私の本来の姿なのだとメリルに向かって叫びたがったが、周りを見渡しても当の彼女はいない。
何か事情があって出席できないのか? 来れないのなら、それはそれでこちらとしては都合がいいのだが。
シャンパン片手に呑気にそんなことを考えていると、一斉に男たちの色めき立った声が聞こえてきた。
興奮の先にいたのは、ようやく現れたメリル・ホーキンスの姿。
美しく着飾り、恥らった様子で丁寧に挨拶に答える彼女は、まさしく淑女そのものだった。
「なんと、お綺麗な方だ……」
「あのご令嬢と結婚を約束している男はいるのか?」
彼女の容姿を賞賛する声や結婚相手にと目を光らせる独身男性たち、あっという間にこの場にいる紳士たちを虜にしてしまった。
そのうち音楽も聞こえ始め、会場にはさらに高揚した雰囲気が立ち込めていく。
私は素知らぬ振りをして代わる代わる女性たちとダンスを踊り、彼女たちと不必要に密着しては耳元で艶めいたことを囁き合って戯れていた。
全てはメリルへの当てつけだったのだが、このまま言葉も交わさぬままでいるのも何だかひどく口惜しい。
怖気づいて逃げたなんて思われても癪に障るし、私の自尊心がそれを許さないだろう。
私は酒を勢い良く飲み干し、メリルの方へと向かった。
「ごきげんよう、ミス・ホーキンス。いや今日からは、“メリル”とお呼びしても?」
伯爵家の次期当主である私に気付くと、彼女を取り囲んでいた男たちは気を利かせてメリルと2人きりにしてくれた。
「まあ、子爵様ごきげんよう。すっかり酔われているのですね」
「ええ、貴女にね」
「……」
メリルが一瞬眉をひそめたのを私は内心鼻で笑う。
あれだけ私への軽蔑の念をぶつけたのだから、さぞかしへこたれていると思っただろう。だが残念だったな。
私はステファン・ダーリングだぞ。
「実はあれから、貴女がおっしゃったことを考えていました。あんなことを私に言うのは後にも先にも貴方だけでしょう……」
「?」
「それで私も目が覚めたのです。一途な愛というものに」
訳が分からない。
そんな顔で私を凝視するメリル。その顔がまた可笑しい。
「ぜひこれからも、友人としてお付き合いいただければと思います」
「……わたくしと貴方が?」
「ええ、いいでしょう? メリル」
不信感を露わにしながら私の魂胆を探ろうとしているメリルに向かって、私はゆっくりと手を差し出した。
「友情の証に、さっそく踊っていただけますか?」
ワルツの旋律にのせて、私の仕掛けたゲームは既に動き出していた。