第34話 I don’t want to know -Francis-
「お兄ちゃんだあれ?」
「マーガレットお姉ちゃんのお友だち?」
「バカ、“こいびと”に決まってるじゃんか」
僕の姿を見た瞬間、矢継ぎ早に質問する子供たち。3歳から12歳までの、キラキラした子供たちの目。そんな目に出会ったことがなかった僕は、あっという間に彼らの虜になってしまった。
子供たちに囲まれながら一つ一つの質問に答える僕を、後ろの方でマーガレットは苦笑しながら見つめている。
彼女が奉仕活動をしているという教会に行ってみたい。数日前に僕がそう言うと彼女は快く承知してくれた。マーガレットのことをもっと知りたい。そんな思いでここまでやって来たが、知ることができたのはそれだけじゃなかった。
教会の建物内や子供たちの着ている服は決して綺麗とは言えなくて、衛生状態は完璧ではないみたいだった。それに限られた寄付金で細々と暮らしているため、お腹いっぱいにご飯を食べられないこともしょっちゅうあるという。
それでも、そんな環境の中でも逞しく生きる子供たちのエネルギーには圧倒される。
昼食の後、子供たちに手を引っ張られて庭へ出ると、たちまち鬼ごっこにかくれんぼ、宝さがしが始まる。遊びはいつまでも尽きなかった。
シャツのボタンを外し、腕まくり姿で本気で子供たちを追いかけると、キャーキャーと騒ぎながら四方へ逃げるまわる子供たちは本当に楽しそうだった。
その最中、遊び疲れたせいで足がもつれた僕が腹這いに転ぶと、またその姿に子供たちはお腹を抱えて笑っていた。
これじゃあ、どっちが小さな子供か分からないな。
遊びがひと段落すると、今度は部屋の中でマーガレットの本の読み聞かせが始まった。
「“すると村人たちは、エイブのことを仲間はずれにしようとしました”」
「えー、エイブが可哀そうだよ」
「どうしてそう思うの?」
「だってエイブがみんなにいじわるしちゃうのは、エイブのほんとうの気持ちじゃないと思うんだ」
「まあ、チャーリーはやさしいのね」
食い入るように本を見つめる子供たちの感じることを、マーガレットは丁寧に拾って受け止めていく。
彼女の瞳には、聖母にも似た愛情と慈愛が宿っていた。
本当に、マーガレットはすごい。彼女がどれだけこの場所で信頼され慕われているか。
子供を愛する君のその眼差しが、微笑みが、とても美しいと思った。
◇
「ある子が言っていたよ、マーガレットお姉ちゃんは天使だって」
「天使だなんて、そんなことないわ……」
せっかくだからと、教会の周りを2人で散策した。近くには大きな果樹園が広がり、素朴だけれど雄大な景色が僕たちを包んでくれている。
「あんなに遊んで疲れたでしょう」
「少しね。でもすごく楽しかった。あんなに笑いながら思い切り走ったのは初めてだよ」
「今度は、ぜひ昆虫のお話をしてあげてね」
「それは得意分野だ。任せて」
好奇心に瞳を輝かせる子供たちを想像して、僕はもうワクワクしてしまった。
「来年にはいなくなってしまうから、それまで出来るだけここに通いたいな」
「……来年」
なぜか彼女が顔を曇らせたのを僕は見逃さなかった。
「マーガレット? どうしたの?」
「え、いえ、何でもないわ」
「……うそつき」
僕はもう気付いてるんだよ? 君は緊張したり不安がったり、無理したりすると、必ず目が泳いじゃうんだ。
「僕は今日、君のことがもっと知りたくてここに来た。だから君も誤魔化さないで?」
「……」
今日は、僕の知らない“お姉ちゃん”のマーガレットを見た。孤児院の生活を知って、彼女みたいに自分も何か手伝えないだろうかと考えた。子供たちの笑顔が、途方もなく眩しかった。
今日一日だけで、こんなにも自分は色々なことを知った。
「……私……来年結婚するかもしれないの……」
「え……?」
だけど、最後に彼女から聞かされたことだけは、知りたくなかったな―――。




