第33話 About her -Francis & Margaret-
マーガレットが帰ったあとも、家族と彼女についての話をした。
それほど、家族にとっては僕が生まれて初めて友人を紹介したことが、ちょっとした事件のように思われているらしい。
「なんというか、お前よりもずっと大人な感じだったな」
兄さんは僕の顔を見て笑う。チョウだけをひたすらに追いかけている弟とはだいぶ違うと感じたんだろう。
「そうなんだ、女の子は成長の速さが違うよね」
「しかし、一応お前も男なんだ。気の利いた話をして女性を楽しませるのは紳士の嗜みだぞ」
父の言葉に姉さんが大袈裟に頷いて同意する。
「貴方、ミス・レイモンドとはどんな話をしますの?」
「どんなって、チョウの話とか……」
「まあっ、そんなただの昆虫の話だけで女性が喜ぶと思いますの!?」
姉さんの眉間に深い皺が刻まれた。まるでおぞましいものでも見るかのような視線を弟に向けるなんて……ちょっとひどくないかな?
「でも、マーガレットも楽しそうに聞いてくれるんだよ?」
「あー、やだやだ、これだから初心者の弟君は。
そんなの、無理して聞いてくれているだけかもしれないだろ。あんなにやさしい娘なんだから」
……それは、確かにありえる。
家族の話は時々するけど、それ以外はチョウのことばっかり話してた……女の子が好きな話題なんて見当もつかないし、第一、彼女があまりにやさしいから。でも本当はとても退屈だったのかもしれない……。
僕は彼女のことをほとんど知らないんだな。それってすごく恥ずかしい。
◇
帰りの馬車のなか、緊張の解けた私は急に襲ってきた眠気と戦っていた。そういえば、今日のことが心配で昨日はろくに眠れなかったのよね……。少し眠っても良いかしら。アルマもいるから、きっと起こしてくれるし……。
うーん、瞼におもりが乗ってるみたい。今にも瞼が落ちそうになったその時、アルマの咳払いが聞こえた。
「あ、あのお嬢様、こんなときに申し上げるのも何なのですが……」
「ん……? なあに? アルマ」
必死で目を開けるけれど、私の頭のほぼ半分はすでに眠ってしまっていた。
「今朝のことなんですが、ウォルター様が、叔母上からお知り合いの資産家の男性をマーガレットお嬢様に紹介しても良いと言われたそうで……」
「ふうーん……」眠たい目をこする。
「社交界デビューする来年中には、その方との婚約を取り付けたいとおっしゃってました」
「へえ、こんやく……って誰が?」
「だからっ、お嬢様のことですよ! マーガレット様聞いてますか!」
「聞いてるわよ、こんやくでしょ……こんやく……婚約? ……私が、婚約? 婚約ーー!?」
そこでようやく私は飛び起きた。眠気はすっかり覚めてしまったわ。
「そんな……私が婚約!? こんなに早く……?」
「ウォルター様、以前から頻繁に叔母上様と連絡をとっていらっしゃったようです」
「……」
どこかで覚悟はしていたものの、まさかこんなに急に縁談が降ってくるなんて。お兄様が着々と準備を進めていた証拠だわ……。
「……お兄様はきっと、その縁談を確実に結ぶためにあらゆる周到な用意をするのでしょうね……私には拒否できないと知っていて」
「お嬢様……大丈夫ですか?」
これで、フランシスとの2人だけの時間も……。
怖いくらいの悲しさが体を襲ったとき、ゆっくりと、目の前が涙でぼやけていくのが分かった。流すまいと堪えても、堪えきれない一筋が私の頬を伝った。
仕方ないじゃない、家のためだもの。泣くなんてみっともないわ。
それに、ある人がこう言っていたじゃない。愛のない結婚から、愛が芽生えることもあるって。
私は、レイモンド家の娘。何の取り柄もない私がここで役に立たなくちゃ。
そう自分を鼓舞しても、流れ出る涙は止んではくれなかった。
フランシス・ダーリングと出会わなければ、こんなにも自分の運命を嘆いたりはしなかったのに……。




