第27話 Misunderstanding -April & Edward-
『サラ、僕は……』
『それ以上言わないで。私は、伯爵様とミス・ルーサムが末永く幸せであるようお祈りしております……』
唇が震えるわ。私の声じゃないみたい。
『僕は貴女を賢い女性だと言った。でも今の貴女は間違ってる。狡いひとだ』
『……伯爵様は知らないのですね。狡さと賢さはいつも紙一重なのです』
この愛から身を引く自分は確かに狡いのかもしれない。でも数十年後、年老いた自分が後ろを振り返ったときに思うの。それは正しく進んだ足跡だったと―――。
―――エイプリル・ダーリング著『サラと伯爵』より
たったひとりの男性のために書き上げた小説。
それを侯爵家へ送ったあと、わたくしは充実感と達成感に浸っておりました。
けれど、ふと頭をもたげてきた不安……もしかして、かえって迷惑だと思われたかしら……?
わたくしは椅子から飛び起きました。
ああ、どうしましょうっ、突然あんな小説を送りつけられたら自分への腹いせかと思われるかもしれませんし、あんなあからさまな内容なら、「うわ、コイツ未練タラタラじゃん、気持ちワルー」とか言われて誤解される可能性大です!
ど、どういたしましょう……これは、わたくしの本心を補足するべきでしょうか……?
◇
好きな物はハッピーエンドの恋愛小説。そう豪語していた彼女が書いた小説とはまるで思えなかった。
労働者階級の娘“サラ”は婚約者のいる伯爵の“ジョージ”と愛し合うが、婚約者である“シャーロット”のことや身分差が壁となり自ら身を引くことを選ぶ。
サラの情熱的な恋心、苦しみ、葛藤……そんな心情が繊細に力強く語られているのだが、何より、彼女がここまで完成度の高い文章を巧みに書くことができるとは私も知らなかった。
そして読んでいる最中、幾度となくそんなサラにエイプリルの姿が重なるときがあった。
もしや彼女も、サラのような“賢い決断”を下すのだろうか。
この本に書かれていること全てが、エイプリルの意思だというのか。
そう思うと、居ても立ってもいられなかった。
仕事の合間を縫って2日かけて読み終わったあと、私はすぐに1通の手紙をダーリング家へ届けさせようとした。
しかしその前に、ある来客の知らせを受けた。
「と、突然の訪問をお許しください……」
いつだったか、手作りのショートブレッドを手渡されたあの応接室で、久しぶりに彼女と対面した。
頬を上気させ、息も荒い。なぜか慌てたような姿でエイプリルはそこに居た。




