第26話 200 pages love letter -April & Edward-
自分らしく、エドワード様への想いを伝える。
ジュリアンからの手紙を機にそう意思を固めたわたくしでしたが、一体どうしたものかと再び行き詰まっていました。
今日の朝食のテーブルにはシンプルな花瓶に挿されたラベンダーの花が。季節はすっかり初夏に変わろうとしています。
そんな爽やかな朝にも、果物をつまみながらついわたくしは考え込んでしまいます。
わたくしの趣味といえば……たまに詩を書いたり、ピアノも少々、いちおう料理もかしら? ああ、でもこんなものではこの気持ちを伝えきることは不可能だわ。わたくしってなんて才能のない女なのかしら……。
「幸せが逃げていくよ」
思わずため息を漏らすと、新聞を広げていたお父様がそんなわたくしに言いました。
「それは分かっていますが、わたくしの才能のなさが嘆かわしいのです」
「才能? お前は本をよく読んでいるし、何より想像力豊かだ。意外と文才があるかもしれない」
「……え?」
お父様はきっと思いつきで言っただけなのでしょう。
でもこの一言で、わたくしはすぐに「これだ!」と眼が覚めたような気分になりました。
文才があるかどうかは二の次。ただわたくしは小説が大好き。とびきりロマンチックな小説が。その気持ちだけがわたくしをつき動かしたのです。
大量の紙をすぐさま用意させ、わたくしはそれからしばらくの間机に張り付いたままでした。
湧水のごとく次から次へと言葉が溢れ、走らせる筆が追い付かないほど。頭の中の想像は止まる事を知らず、憑りつかれたようにただひたすらに物語を紡いでいきました。
現実に舞い戻ったとき、部屋にはすっかり夕焼けの光が。
まだ途中の原稿を眺めると、それはまるで自分の子供のように愛おしく思えます。だってここには、わたくしのエドワード様への愛がつまっているのですもの。
たとえ、エドワード様がわたくしを愛してくれなくとも、この物語を書き終えることがわたくしの恋に一つの区切りをもたらすのです。
部屋に缶詰め状態のまま原稿に没頭したわたくしは、それから数日後ついにそれを書き上げました。
たったひとり、あの方に読んでほしかった。この物語に綴った想いを、あの方に捧げます―――。
◇
エイプリルと会わなくなって、どれほど経ったのだろう。
それでも日常は変わらない。仕事をして、たまに友人と酒を飲み、休みの日には馬に乗る。
だけれど、こんなにも心はからっぽだった。となりに無邪気に微笑む彼女がいないだけで。
距離を置こうとしたのは自分のくせに、この矛盾した葛藤が私を苦しめていた。
そうして悶々とした日々をしばらく過ごしているときだった。私宛に小包が届いた。
荷を解くと、中からは厚みのある紙の束が出てきた。
その表紙には、“サラと伯爵”というタイトルらしきものと、その下には著者の名が。
私がよく知っている、ある女性の名。
早速ページを捲ると、冒頭、こんな前書きが記されていた。
『この小説を、わたくしの愛する“E”に捧げる』。
その文字を私はゆっくりと指先でなぞる。
それは、とある小説家から送られてきた200ページのラブレターだった。




