第25話 I know it -Charles-
「うちの妹がお世話になっているようですね」
肩越しに振り向くと、そこにはかの有名な“伯爵家のカサノヴァ”がいた。
アルコールの匂いと煙草の煙、それに政治談議で充満したこの部屋でまさか彼を見かけるとは思わなかった。
「ステファン、久しぶりだな」彼と固い握手を交わす。
「ええ、本当に。貴方もこのクラブに?」
「まあね。父の支持している議員だから仕方なく」
「ははっ、私も付き合いで仕方なく。やる気のない会員同士、仲良くしてくださいね」
乾杯しながら、おどける様に目配せした。
「それで君の妹のことだけれど、弟はどうやらエイプリル嬢に惹かれているようだ」
「まさか、相手にされてないって落ち込んでましたよ」鼻で笑うステファン。
「いいや、僕には分かる。エドワードの瞳には、彼女のことを愛おしく思う心が表れているんだよ」
鬱陶しそうにしてたくせに、あいつは相当彼女のことが気に入ってしまったに違いないんだ。
そうでなければなぜ、仕事でエドワードらしくもないミスをしてしまうんだ? 決まってる、訳あって最近会わなくなった彼女のことが気になって気になって仕方がないからだ。
「兄である貴方が言うんだから間違いないんでしょうね。でもその事はエイプリルには黙っておきますよ」
「なぜ?」
「だって恋には波風が立たなきゃつまらないですからね」
「ひどい兄貴だな」
「可愛い妹ほどいじめたくなるんですよ」
悪ガキのような笑みを浮かべるステファン。
でもステファンのいう事は尤もかもしれない。小説だって、試練があってこそ2人の恋が盛り上がるというもの。
エドワードとエイプリルも、立ちはだかる壁を2人で乗り越えてこそお互いの気持ちが通じ合うのだ。
そして僕にはもう一つ分かることがある。
弟の心……迷いや不安、恐れ、そういった負の心を溶かしてあげられるのは、エイプリル・ダーリングしかいないということ。
彼女こそ、エドワードを幸せにできる唯一の女性なのだと―――。
「ところで君こそ、噂のミス・ホーキンスとはどうなったんだ?」
「あれ、知らなかったんですか? つい最近彼女と婚約したんですよ」
「!?」
目尻の下がったアホ面で惚気話を始めるステファン。何度アルコールをぶっかけやろうかと思ったことか……。
ああ、こんなとき自分の本音が出るんだ。
弟の恋愛なんかより、早く自分にも素晴らしい妻が欲しいものだと。




