第24話 Be myself -April-
『さよなら。君みたいな女性とはもう付き合えないよ』
何の感情も宿っていない瞳でそう告げるエドワード様。
わたくしは遠ざかって行く彼の背中を追いかけることもできず、ただ泣き崩れるしかありませんでした。「ああ!エドワード様~っ」と、はしたなく叫びながら。
「姉さんどうしたの?」
ジュリアンの小説さえ読む気にならず、ただひたすらに最悪の結末を妄想していたわたくし。
弟のフランシスがそう声をかけてくれるまで、わたくしの妄想が途切れることはなかったでしょう。
ああ、やけに臨場感たっぷりに想像できてしまうところがさらに悲しいですわ……。
「……フランシス、恋って儚いものね……」
「なに悟ったような事を……あ、もしかしてミスター・ハウエルと何かあったの?」
「その名前は口にしないで頂戴な。というか、貴方はなんだかやけに嬉しそうな顔をしていますけど」
「そうかな?」
首をひねるその顔も、どこか浮かれているような……あっ、もしや、
「例のあの娘と会うのでしょう」
「うん、まあね……」
まあっ、あのフランシスがはにかんでいるわ!
頭の中にはチョウしかいないあのフランシスにこんな顔をさせるなんて……いったいどんなガールフレンドなのかしら。
そしてそんな弟の姿を見たわたくしは、改めて思ったのです。
やっぱり恋って素晴らしい。
エドワード様が婚約を交わしているかもしれない。
そんな噂を耳にしてから、わたくしは彼と会うのを止めました。
本当はとても、とてもお会いしたいです。
でも会ったところで、きっと変な振る舞いをしてしまうでしょうし、何より真実を確かめることが怖いのです。
だから今は我慢するのです。自分の意思がきちんと整理されるまで。
◇
そんな落ち込むわたくしに喜ばしい出来事が起きたのはその日の午後でした。
思わぬ方から手紙が届いたのです。
差出人はなんと……ジュリアン・ハワード!
わたくしは興奮が抑えきれず、このニュースを家じゅうの者に伝えてまわりました。あのジュリアン・ハワードが返事を送ってくれた! それがどれほどわたくしの励みになったことでしょう。
期待に胸を膨らませながら封を切り、わたくしは一文字一文字、噛み締めるように読み始めました。
“ 親愛なるミス・ダーリング
貴女からの心温まるお手紙には、いつも勇気づけられています。貴女のような素晴らしい読者に恵まれた私はなんと幸せな作家でありましょう。
さて、先日頂いた手紙についてですが、貴女が今、恋に関してとても思い悩まれている様子がひしひしと伝わってきました。
しかしながら、私の小説は恋愛の指南書ではないですし、私自身もまた百戦錬磨の恋愛上級者ではありませんので、貴女が望まれているような助言はできないかもしれません。
ただし一つ言えるのは、貴女の愛を貴女なりのやり方で伝えてみてはどうでしょうか。
私の本を真似するのではなく、貴女らしく、その誠実な気持ちを伝えるのです。結果はどうあれ、それが一番大切なことではないかしら。
貴女にとって後悔のない結末が訪れることを私も祈っています。
それでは、これからも貴女が私の永遠のファンで居続けてくれることを願って……
愛をこめて ジュリアン・ハワード ”
手紙を読み終えた直後から、わたくしは何度も彼女の言葉を反芻しました。
“貴女らしく、その誠実な気持ちを伝える”。
今思えば、それはわたくしに欠けていた事。
でも“わたしらしく”って、一体どうすれば良いのでしょう……?




