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DARLING !  作者: non
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第20話 Your Heart Away -April-



 ゴールの瞬間、わたくしは侯爵夫人と跳び上がりながら手を取り合い、喜びと興奮を分かち合いました。


 馬主や調教師、観衆たちが一体となって一喜一憂するこの雰囲気に思わず酔いしれてしまいそうです。

 地響きと共に力強く地面を蹴るその姿は圧巻で、引き締まった筋肉や風になびく艶やかな毛並みはとても美しいものでした。



「すばらしいレースでしたわね」

「……」

「エドワード様?」


 わたくしは初めて目にした光景に胸が高鳴り、この感動をぜひエドワード様と共有したかったのです。

 

 けれど、となりに座る当のエドワード様は虚ろな瞳で前を見つめたまま。わたくしは顔を近づけてもう一度話しかけます。


「エドワード様、すばらしい優勝でしたわね」

「えっ……あ、ああ、そうだね……」


 たった今わたくしの存在に気付いたような、そんな反応。

 

 こんな反応を何回見たでしょう。

 そのたびに悲しくなってしまいます。最近のエドワード様はなんだか変なのです。



 この数日間、いっしょに遠駆けに出かけたり、舞踏会に出席にしたり、さらに友好を深めてきたつもりでした。


 そして今日も、エドワード様のお父上である侯爵様が所有する馬のレースに招待され、侯爵夫妻、エドワード様と共にレースを観戦したのです。


 でも終始エドワード様にはあまり笑顔がなくて、言葉数も少なくて、何となくわたくしと目を合わせるのを避けているようにも見えました。


 はしゃいでいたのはわたくしだけ……そんな惨めな気持ちがシミのように広がって行きました。









 


 帰りの馬車の中、わたくしとエドワード様は一言も言葉を交わさぬまま、ただこの重い空気をやり過ごすしかありませんでした。



 わたくしは思い返していました。


 あのバルコニーでの出来事は、今でも思い出すだけで体が熱くなってきます。

 エドワード様の逞しい胸元や温かな腕の感触、匂いに包まれて、まるで夢のような瞬間でした。

 

 でもそうやってどこかで期待していた自分は、なんて愚かだったのでしょう。


 

 だってこんなにも、エドワード様のお心が遠い―――。



 わたくしには自信があったはずでした。

 絶対にこの方と結ばれるという計り知れない自信が。


 でもエドワード様の明らかな態度の変化は、その自信にいとも簡単にひびを入れたのです。


 それにエドワード様の、あの言葉。


“まだ恋はできないだろうから”


 あれはどのような意味なのでしょう。それを考えると、もう頭の中はぐしゃぐしゃです。



 わたくしの目に、自然と涙がこぼれてきました。


 エドワード様を愛おしく思えば思うほど、こんなにも胸が苦しく、痛い……。


 でもこんな姿をエドワード様に見せては駄目です。

 窓の外を見つめながら、わたくしは気付かれないように目元を拭って震える唇を噛みしめ続けました。







               ◇







“ ジュリアン・ハワード様


 お久しぶりです。先月発売された最新作、拝読させて頂きました。

 あの結末には、多くの読者が良い意味で裏切られたことでしょう。涙なしには読めない結末で、わたくしはしばらく呆然としてしまったほどです。貴女様のその才能にはいつも敬服するばかりです。



 さて、私事でたいへん恐縮なのですが、わたくしは今、ある紳士に恋をしております。


 ミス・ハワードの小説も参考にしながらその方にアプローチを始めたのですが、なかなか想いは届きません。

 それどころか、どんどん彼の心は遠ざかって行くように思えます。


 やはりこのまま諦めるのが賢明なのでしょうが、わたくしは心の底からその方を愛しているのです。


 ああ、この迷える乙女に貴女様からのご助言をどうかお聞かせ下さいませ。厚かましい事とは存じておりますが、どうかよろしくお願い致します。


 お体にお気を付けて、これからも執筆に励まれるよう祈っております。


         永遠に貴女のファン エイプリル・ダーリングより ”

            




 

 その日の夜、定期的に送っているジュリアン・ハワードへのファンレターを書き終え、わたくしはようやく就寝しました。


 この苦悩を誰かに打ち明けてからでなければ、わたくしはきっと一睡もできなかったことでしょう。





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