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DARLING !  作者: non
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第19話 How is a sexy girl ? -Edward-



 女は子爵の腕に抱きつくと、こぼれんばかりの豊満な胸をわざと押し付けるように寄り掛かった。

『おい、離さないか』

『嫌よ。今夜こそ私を貴方のものにして』

『僕には妻が……』

 狼狽する彼の唇に、女は自分のそれをやや乱暴に重ねた。

『もう……止められないの』

 ぽってりとした紅い唇から紡がれる艶めかしい声。子爵の抵抗も空しく、官能の波は次から次へと彼を飲み込んでいくのだった。

          ―――ジュリアン・ハワード著『レッドフォード家の人々』より









 法曹院で今度の訴訟に関する書面を作成していたときのことだった。ダーリング家の使いの者が突然やって来ると一通の手紙を渡してきた。差出人はエイプリルだった。



 “ 愛するエドワード様へ

 

 お忙しい中、突然の手紙をお許しください。

 今夜、ぜひご一緒に晩餐をと思い、筆を執りました。

 ご帰宅のお時間を知らせて下さればこちらの馬車を迎えに行かせます。

 それでは、お返事をお待ちしております。


                   エイプリルより ”





 晩餐? こんなに急に?

 思い立ったら即行動が彼女の信条でもあるのだろうか。まあ、彼女らしいけれど。


 気が進まないのが本音だが、今夜は特に用もないし断る理由がない。それに彼女への友情を約束した以上、夕食くらい行かなければ筋が通らないだろう。

 読み終わった手紙を置いて、私は新しい便箋を持って来させた。













 クレヴィング伯爵を始めとしたダーリング家の面々との食事は、なんというか、不思議なものだった。


 伯爵は夫人のレイチェル様とゲストそっちのけで終始いちゃついていたし(ずっと手を絡ませて見つめ合ってた)、次男のフランシス君はあまり会話に入らず、とりあえずチョウにしか興味がなさそうな男の子という印象。

 長男である子爵からは華麗な女性遍歴をさり気なく自慢された後、今狙っている娘が全く自分になびかないのだという愚痴をしつこく聞かされた。


 そして極めつけはエイプリルだ。

 今日のエイプリルは明らかにいつもと違っていた。というか、ヘン?


 おかげで屋敷に着いたときから私は困惑しっぱなしだった……。


「今晩は、エドワード様。ようこそいらっしゃいました」

 そう言って妙に体をクネクネとさせながら、私を出迎えたエイプリル。


 私は口を開けたまま彼女を凝視した。

 

 腰まである赤褐色の髪の毛は結わえられ、白く華奢な項が露わになっている。

 唇は派手な紅が引かれて怪しく艶めき、首には大きな宝石。

 そして大胆に谷間が強調された胸元(意外と大きい)は濃密な色香が匂ってくるようだった。


 なぜ突然このような変貌を?

 

 唖然としてろくな挨拶もできないまま、私は晩餐の席へと向かったのだった。







              ◇







 食事を終えると、エイプリルに見晴らしの良いバルコニーへと誘われた。


 酒で火照った頬にやや冷たい風が気持ち良い。空を見上げると今夜は見事な三日月で、この屋敷をひっそりと照らしていた。



 手すりに寄り掛かりながらそんな薄暗い景色を眺めていると、ふいに右肩に重みを感じた。

 

 見ると、エイプリルが体ごと預けるようにして私に寄り掛かっていた。その目はうっとりと閉じられている。


 ……一体何なんだ。やっぱり今日の彼女はおかしい。

 

 いつになく積極的な彼女の行動は私を怪訝にさせるだけだった。


 私はさり気なく横にずれてエイプリルの体を引き剥がそうとした。しかし今度は腕にぎゅっと抱きつかれ、彼女の胸のふくらみがはっきりと布越しに伝わってきた。

 これには私の理性も保てなくなりそうで、強引にエイプリルから腕を離した。


「あの……やめてくれないかな」

 胸元から視線を外してそう訴えると、エイプリルは上目遣いに私を見てくる。

「ドキドキしませんか?」

「え?」

「殿方は、セクシーな女性がお好きでしょう?」

 その言葉で、全てのことに合点がいった。


「もしかして、今日の恰好はそのために……?」

「ええ、どうしてもエドワード様を誘惑したかったのです」

「……」

 そんな、今さら恥じらいながら誘惑したいと言われても……。私は小さくため息を漏らしながら、そっと彼女の体を離した。


「言ったでしょう? まずは友人としてお互いのことを知ってからだと」

 諭すようにそう言うと、エイプリルは眉尻を下げて顔を俯かせた。


「だって、わたくし不安なんですもの……エドワード様を誰かに取られてしまうのではいかと」



 ―――“取られる”

 

 彼女の言葉に、いまだ忘れられない、あの女性ひとの面影が頭をよぎった。



「―――大丈夫だよ。まだ恋はできないだろうから」


 思わず口をついて出たそんな台詞。

 横を見下ろすと、彼女もその意味を推し量るような目でこちらを見つめていた。



 私は誤魔化すように手すりから離れ、部屋の中へと戻ろうとエイプリルに背を向けた。


「と、とにかく、君にはそんな厚化粧や派手なドレスは似合わない」

「そんな……せっかく今回もジュリアンの小説を参考にしましたのに」

 落胆する彼女の方を振り返った。


「素のままの、いつもの君の方が私は好きだよ」

 もちろん、友人としてね。そう付け加える前に、苦しいほどの力強さでエイプリルに抱き付かれていた。


「苦しいよ、エイプリル」一歩後ろへよろめく。

「エドワード様、大好き」

「……」


 胸の中でまっすぐな愛情をぶつけてくる彼女を見下ろしながら私は思った。


 

 自分はこの娘を傷つけることはできない。

 


 だったらこれ以上、関わらない方が良いのではないかと。






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