第18話 Teach me! Ms. Julian -April-
『シャーロット、これは君が?』
アーノルドは1枚のハンカチーフを受け取った。そこには刺繍された“A”の文字が。
『あまり上手とは言えないのですが……ひと針ひと針、心を込めて縫いました』
『ああ……君はいつもこうして僕を幸せな気持ちにしてくれる。ずっと大事に使わせてもらうよ』
この日からアーノルドは、まるでロザリオのようにこのハンカチーフを片時も離さず持ち歩くのだった。
―――ジュリアン・ハワード著『シャーロットの告白』より
ふるった粉にバターと砂糖を入れてかき混ぜていると、自然と鼻歌がこぼれてきました。
でも周りの料理人たちは何故か落ち着かなさそうにハラハラしているように見えるのですが、わたくしの気のせいかしら?
シャーロットが刺繍なら、わたくしはお料理で勝負です。
初めてのお料理は、恋する人に捧げるショートブレッド。
隠し味はもちろん……わたくしの“愛情”。これでエドワード様のお心を鷲掴みにできるかしら。
出来上がりはちょっぴりヘンテコな形になってしまったけれど、味は間違いないです!きっとエドワード様にも伝わるはずです。わたくしの、恋する気持ちが。
◇
「妹よ、高望みはよせ」
お兄様はそう言いながら、ビショップを縦に動かしました。わたくしのクイーンを取ろうなんてお見通しですわよ。
「5つ年上の侯爵家の子息なんて、お前には高嶺の花じゃないか」
「あら、でもとりあえずは友人としてお付き合いして頂けるのですから、そのうち花嫁衣裳に袖を通す日もきっと来るはず」
「……物事はそんなにうまく運べるものじゃないが」
まあ、お兄様ったらまたそんなひどい事を言って。メリル様になかなか振り向いてもらえないから僻んでいらっしゃるのね。
せっかく晴々とした気持ちの良いお庭でチェスを楽しんでいましたのに、それも台無しになってしまいますわ。
「でも5つも年下ですと……やっぱり子供っぽく思えてしまうんでしょうか?」
次の一手を考えながら、わたくしはそんな事を口にしました。
あんなに素敵な男性ですから、わたくしのような女では所詮ただの小娘にしか見えないのでしょうか。
「そりゃあ、男は色っぽい女性の方が好きなものさ」
「色っぽい?」
「そう、セクシーなね」
せくしー……?
ああ! そういえばジュリアンの本にもそのような女性が頻繁に登場しますわ!
「お兄様、失礼しますわっ」
「どうしたんだエイプリル」
わたくしはチェスの駒を握りしめたまま一目散に屋敷の方へ走って行きました。
こうしてはいられません、次の作戦開始ですっ。
待っていてくださいね、エドワード様!




