第12話 Impregnable girl -Stephen-
正直、私は焦っていたのかもしれない。
彼女を落とすというこのゲームを楽しもうとしたはずが、気付けば振り回されていたのは私の方だった。
贈り物をすれば「いりません」と受け取らず、愛を囁こうとすればいつの間にか耳を塞がれ、さり気なくボディタッチをしようものなら、死んだ目をして抵抗するのだ。
一体なんなんだ!
これじゃあ、メリルにイライラして自分のペースを見失っていた頃と同じじゃないか。
いっそのこと彼女を諦められたらどんなに楽だろうと何度思ったことか。でも結局そこへ踏み切れないのはなぜだろう。
意地? プライド? そんなものだけだろうか。
◇
先週、従兄のクリス・マクスウェルが久しぶりにダーリング家を訪ねて来た。
結婚は墓場論者だったくせに、超愛妻家へと変貌を遂げた例のクリスである。
今回の訪問には彼から何か報告があると聞いていたのだが、やはり妻のセシリアがめでたく懐妊したという事だった。
「クリス! おめでとう!」エイプリルが祝福のハグをする。
「あなたに似た子かしら?」母が気の早いことを言うと、
「僕はセシリアに似た女の子が良いんですけどね。だって絶対に可愛いに決まってる」
クリスは早くも親バカの片鱗をうかがわせるような事を言った。
あの凛々しい切れ長の目で何人も女を泣かせていた男が、本当に私の知っているクリス・マクスウェルなのだろうか。
クリスよ、なぜ君はこうなった?
「いつも殺風景だな、お前の部屋は。相変わらず外でばかり遊んでるんだろう」
「今はそうでもないさ」ていうか、そっちの方もずいぶんご無沙汰だよ。
男2人での語らいもずいぶん久しぶりのような気がする。何しろ結婚してからすっかり付き合いが悪くなったクリスだ、よほどセシリアの待つ家が恋しいのだろう。
「それで、お前も結婚する気になったのか」クリスはパイプに火をつけた。
「まさか」
「あれ、でもさっき伯父上から教えてもらったぞ。ようやくステファンにも本気で結婚を考えるような女性ができたって」
……あの親父め。
「誤解だよ。ただのゲームとしてある女性にアプローチしてるだけさ」
「というと?」
「その女というのが、初めて会っていきりなり私を嫌いだと宣言するような娘でね」
「それは大物だな」クリスは吹き出した。
「こうなったらもう、彼女を落としてやることでこの悔しさを晴らしたいと思って」
「で、順調なのか」
「それが、やることなすこと上手く行かないんだ。……難攻不落の砦に立ち向かってる気分さ」
あー、思い出すだけで自分が惨めになる。あの惨敗の日々がよみがえる……。
「こんなにお前を弱気にさせるなんて、興味あるな」
「は?」
「今度、お前が主催する夜会があるだろう? 連れて来いよ。その難攻不落の女とやらを」
思えばこのクリスの言葉のおかげで、私はムキになっていたのかもしれない。女一人も自分の夜会に誘えないような男にはなりたくないと。
そしてそんなつまらない自尊心が、あの悲惨な失態につながるとは思ってもみなかったんだ―――。




