第10話 Let's be friends -Francis-
マーガレットの供で付いて来た侍女に2人きりで散歩すると伝え、僕たちは川の流れる方へゆっくりと歩きだした。
訊くと、やはり彼女は僕と同い年で、今は来年の社交界デビューに向けて色々と準備しているらしい。
「本当は以前のように孤児院での奉仕活動をしたいんですけど、兄が私の結婚のことばかり口にして……」
その横顔が、やけに大人の女性に見えた。結婚なんてこれっぽっちも頭にない僕とは大違いだ。女の子の方がずっと大人なんだな。
「フランシス様は?」
「僕は来年からは王都にある寄宿学校に入る。きっと地獄みたいな所なんだろうけど、こればっかりは仕方ないね」
「まあ、寄宿学校ですか……」
そのとき、マーガレットの色白の頬に影が射したように見えたのは気のせいだろうか。
僕の方がゾッとしてるのに。
木々の匂いに囲まれて、小川の穏やかな水の流れが耳にやさしい。
川のすぐ近くに丁度良い場所を見つけ、2人並んで腰を下ろした。
「この森へはよく来ていたんですか?」
「ああ、実はチョウが好きで、よく採集したりスケッチしたりしてるんだ」
「チョウ、ですか?」
彼女は小さく首を傾げた。
「小さい頃にね、家族で滞在した別荘の近くで、樹液に止まるコムラサキを見つけたんだ。僕が初めて見たチョウだった。
紫色が鮮やかで、僕はあっという間にこの美しい虫に夢中になった」
その後すぐにチョウの図鑑を父にねだって、ページの片隅が破れるまで読み続けたんだっけ。
「君にも見せてあげたいよ、コムラサキのあの綺麗な翅を。あ、コムラサキってね、あんまり花に止まることがないみたいなんだ。それどころか動物の死骸に―――」
そこで僕はようやく口を塞ぐことができた。
マーガレットがあまりに真剣に僕の話を聞いてくれるからつい……僕の悪い癖だ。
「ごめんね。こんなこと話されてもつまらないよね」
「え? どうして謝るんですか。私もっと聞きたいです、フランシス様のチョウのお話」
「本当? 僕がチョウの生まれ変わりだって言っても笑わない?」
「ふふ、なんですかそれ。でもフランシス様がそう仰るなら、そうなんでしょうね」
そう言ってにっこり微笑むマーガレット。
その時、彼女の背後に輝きを放つ聖母がはっきりと見えた。
僕はこの感動どう表せば良いのか分からなくて、気付けば彼女の両手をぎゅっと握りしめていた。
「やっぱり、君なら分かってくれると思ったんだ! 僕と君はきっと良い友人になれるね」
僕はようやく同い年の気の合う友人を手に入れた気になって有頂天だった。彼女も自分と同じ気持ちだと勝手に思って。
それが彼女を悩ませているとは知らなかったんだ。




