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08. Continue:02-4

 状況の整理ができた所で、アクセルが確認するようにその場の全員に視線を向けつつ言った。


「で……とりあえず、まずは『勇者』と『魔王』が魔王城の中にいない場合の検証、だったな」


 アクセルの確認に、エマもジャンヌも頷いた。

 先にジャンヌが口に出したが、『巻き戻し』が起こるに当たっての条件で予想がついているものがあるならば、それを試すのが一番早い。しかもそれが「城の中に居るか否か」なら、城の中にいなければいいだけだ。


「左様。命を奪い合わないことは出来たとて、眠りにつかぬことは出来ぬ。魔物の中には『眠らずの術』を使う者もおる故、眠りを遠ざけることも不可能ではないが、しかしあれは睡魔を後回しにするもの。いずれ眠る時はやってくる」


 シェドザールの発言に全員ともが神妙な顔になった。彼の言う通り、生きている以上眠らないことは難しい。徹夜するにしても限界がある。話に上がった「眠らずの術」についても、睡魔を取り除くものでない以上、いつかは寝てしまうことになる。

 つまり、一つ目の条件を回避することは叶わないわけだ。シェドザールが言葉を続ける。


「おそらく、一つ目の条件にかかった際に二つ目、あるいはそれ以降の条件で『巻き戻し』の有無が決まるのだろう。アシアの腹積もりで決まるのだとしても、あやつは世界神。定めた世界の理に背いた動きは出来ん」


 続けられた言葉にジャンヌとアクセルがこくりと頷いた。

 この『巻き戻し』をアシアが起こしているとして、その条件を設定したのは他ならぬアシア自身。条件を後から動かすことは出来ないし、やるわけにはいかない。やってしまったら神とはなんぞ、という話になってしまう。

 つまり、設定済みの条件さえ明らかにすればいいわけだ。エマが首をこきりと鳴らしつつ口を開く。


「で、さっき言った話になるわけね」

「そういうわけだ。『魔王』が魔王城を離れる、ということがあってもよいものか、という点は多少……気にかかるがな」


 エマの発言に同意しながら、チラとシェドザールが城の方を見る。そこにはまだアンデオル他、魔王城の主たる魔物がこちらの様子を窺っていた。先程よりも人数が増えている。よほど王の様子が気になるらしい。

 あまりにもそわそわしている魔物たちの姿にため息をつきながら、アクセルが前髪をいじりつつ言った。


「まあ、どうにかなるだろう。きっとそこが問題になるのだとしたら、また『巻き戻し』が起こるだけだし」

「で、あろうな」


 シェドザールもそれに同意しつつ、ゆっくりと立ち上がる。さすがにそろそろ、魔物たちにも説明が必要だろう。なにせ『魔王』が魔王城を離れてどこぞに消える、という異常事態だ。


「さて、城を留守にする旨、城の者に話してまいる。しばし待たれよ」

「ああ」


 言い残して城の方に歩を進めるシェドザールを見送りつつ、アクセルは鍋を取り出して水と香草を加えて煮出し始めた。簡単な茶の用意だ。

 三人でのんびりティータイムをしている間、シェドザールはアンデオルや門番の魔物やらと話し込んでいた。当然と言えば当然だが魔物たちは大変に困惑しているようで、説明と説得に苦戦しているらしいシェドザールの大きな尻尾がすっかりしぼんで力なく垂れている。

 そうしてかれこれ一時間は経った頃、太陽が森の木々の上にまで上った所で、ようやく決着が着いたらしい。アンデオルがハンカチで鼻をかみながら涙をボロボロ流しつつ手を振っている。


「陛下、なにとぞお気をつけて!」

「うむ。息災でな」


 説得でだいぶ労力を使ったらしいシェドザールが、大きな三角耳をへたらせながらゆるく手を挙げた。そのまま橋を渡ってアクセルたちのところに戻ってくる。鍋の中に残った茶は、既にまあまあぬるい。


「準備はできたのか」

「問題ない。側近の説得に多少手こずったがな」


 アクセルがちょうど空のまま置かれていた椀に茶を注ぐと、それを受け取ったシェドザールはぐいと一息でそれを飲み干した。よほど説得で疲れたのだろう、無理もない。

 椀をアクセルに返しつつ、息を吐いたシェドザールが話し始める。


「さて、『勇者』。共に行動する理由も無い故、ここからは別行動となるが、先んじて話しておく」


 その言葉に三人共が頷いた。それはそうだ、『勇者』と『魔王』が城の外で行動を共にしていたら何事だとなるし、下手をしたら近隣の村が大騒ぎだ。

 おもむろにシェドザールが片手を地面に向ける。魔法陣が展開される中、『魔王』はゆっくりと口を開いた。


「明日以降、『巻き戻し』が発生したら貴様らはここの『憩いの火』に、吾輩は城の自室に戻るであろう。そうなった場合、その日の伝達事項はこの飛狼(フライウルフ)を通して伝える」


 そう言いながら魔法陣に魔力を送るや、光り輝いた魔法陣から子犬サイズの狼が生み出された。背中に一対の羽を備えた狼が、ジャンヌの腕の中に収まる。

 空を飛ぶ狼の魔物、飛狼(フライウルフ)。本来は大型犬くらいのサイズがあり、自在に上空を飛び回って地上の人間に強襲を仕掛ける魔物だが、子犬サイズということもあって愛らしさがある顔つきだ。


「連絡用の魔物、ってことか」

「左様。毎朝毎朝吾輩が窓から飛び降りては、城のものも不安がるであろうからな」


 アクセルが納得した様子で飛狼(フライウルフ)の頭に手を伸ばすと、その飛狼(フライウルフ)がアクセルの手をくんくん嗅ぎつつシェドザールの声で話し出す。

 どうやらシェドザールの話す言葉を、この飛狼(フライウルフ)の口から出させることが出来るらしい。確かに毎度毎度、シェドザールがバルコニーから飛び降りては手間だ。アンデオルらもその都度心配するだろう。飛狼(フライウルフ)一匹が窓から飛び出す程度なら、誰に何の心配もさせないだろう。

 と、マントについたフードを被りつつ、シェドザールが『勇者』たちに背中を向ける。


「では、吾輩は行く。共に『明日』を迎えようではないか」

「……ああ」


 そう言い残して歩き出すシェドザールの背中に短く告げるアクセル。三人はただただ、ゆっくり歩いて去っていく『魔王』の姿を見つけていた。

 川沿いに歩いて去っていったシェドザールの姿が霞む頃まで見送ると、ジャンヌが飛狼(フライウルフ)を抱きかかえたままぽつりと呟く。


「……行ってしまわれましたね」

「ん……そうね」


 エマも何やら、複雑そうな表情をしながら視線をそらしつつ言う。魔王城の城門前には既に誰もいない。魔物たちはそのまま場内に引き返していったらしい。

 さすがにここから魔王城の中に乗り込んで、何が出来るはずもない。というか『魔王』がいないことが分かっていて、城内の魔物を殺して何になろうか。


「どうする? これから」

「今からコチ村に行ったとして、村の方々に怪訝(けげん)な顔をされてしまいますわね……」


 エマが問いを投げると、ジャンヌが小さくため息を漏らしつつ応えた。

 確かに意気揚々と『魔王』討伐に向かっておいて、何故引き返してきたのか、と問われたら答えに窮するだろう。適当に周辺を散策しつつ、別の『憩いの火』に向かうのが妥当な流れだ。


「そうだな……とりあえずコチ村の方に向かいつつ、周辺の魔物を討伐していこう。そしたら適当な所でキャンプを張ればいい」

「賛成」

「そういたしましょう」


 アクセルの提案に二人も頷く。そうしてさっさと荷物をまとめ、椀やカップ、鍋を洗って革袋にしまい、後片付けも行って三人は歩き出した。あれから飛狼(フライウルフ)は何も喋らない。喋る必要もない、ということなのだろう。

 遠ざかる『憩いの火』と魔王城。『勇者』としてあるまじき行動だろうと彼も思っている。だが、今できることは他にないのだ。


「さて……どうなるかね」


 誰に言うでもなく、ぽつりとアクセルが呟く。そして魔王城の周辺に、静寂と平和がただ残されていた。

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