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07. Continue:02-3

 エマとジャンヌもシェドザールと握手を交わしたところで、四人は『憩いの火』を囲う形で切り株に腰を下ろした。

 ちら、と魔王城の方に視線を向けると、城門の向こう側に引き上げた門番の魔物たちが目を白黒させながらこちらの様子を伺っている。その中にはアンデオルの姿もあった。彼らからしたら、気が気でないといったところだろう。

 そんな魔物たちの視線を背中に受けながら、両手を組んだシェドザールが肘を自分の太ももに乗せながら口火を切った。


「ついては『勇者』、昨日……便宜上昨日と呼ぶが。我輩を倒した後、どうした?」

「えー……昨日は……」


 問われ、アクセルは視線を彷徨わせる。休息も取らない中での戦闘で限界だったために途中からの記憶がおぼろげだが、どうしようかという意思決定は『魔王』討伐後に済ませてある。


「魔王討伐をやった時点でもうヘトヘトで、疲れて眠かったから……確か、魔王城の中にある魔王軍の宿舎でベッドを借りて寝たんだっけ?」

「そう、ですね。そうだったはずです」


 アクセルに問いを投げられ、ジャンヌが顎に指を当てつつ答える。彼女もどうにも自信なさげに答える辺り、だいぶ頭がぼんやりしていたのだろう。

 二人の言葉にエマも頷いている。流れ自体は、大きく間違っているわけではないということになる。三人の反応を見て、シェドザールは黒い鼻から細く息を吐きだした。


「なるほど……ということは貴様らはあの日の夜を魔王城の中で(・・・・・・)終えたのだな」

「まぁ……そうなるんじゃないか?」


 シェドザールの言葉にアクセルも首を傾げながら、そっと眉間を寄せた。

 確かに魔王軍の宿舎は魔王城の中にあった。そこを借りたのだから当然、昨夜は魔王城を出ずに城の中で終えたことになる。

 だがそれが、今回のこととどう関係するのか。いまいちピンときていない様子のアクセルにシェドザールが人差し指を立てながら説明を始めた。


「此度の『巻き戻り』、これが発生するための条件がいくつかあるはずだ。その条件の一つが吾輩と貴様ら……すなわち『魔王(・・)』『勇者(・・)の両方が死す(・・・・・・)あるいは眠る(・・・・・・)こと」


 その説明にアクセル、エマ、ジャンヌの三人共がこくりと頷く。ここに関してはある意味当然というか、分かりやすい内容だ。疑問を抱く理由もない。

 そもそもの話、『勇者』の側にしろ『魔王』の側にしろお互い一度は死んでいるのだ。それがトリガーにならないはずがない。

 三人が理解を示したところで、シェドザールが今度は中指を立てた。


「そして恐らく、さらに一つ……『魔王』『勇者』の両名が一日の終わりの際に、双方ともが魔王城の(・・・・・・・・・)中にいる(・・・・)こと」

「ふむ……?」


 次いで提示されたシェドザールの考えにアクセルの眉間のシワが一層深まった。

 なるほど、一理あるといえばある。『魔王』が魔王城を離れることは基本的にないとは言え、『勇者』が魔王城の中にいたまま一日を終えて、翌朝どうなるか。

 下手をしたら生き残っていた魔王軍の兵士に寝首をかかれないとも限らない。城の外に出ていれば、少なくとも『憩いの火』まで戻っていれば、その危険性も排除できるわけだ。エマが身を乗り出して口を挟む。


「じゃあもしかして、昨日にあたしたちが横着して魔王城の中で寝ないで、ちゃんとこの『憩いの火』まで戻ってきていれば、『巻き戻り』は起こらなかった……ってこと?」


 エマの問いかけにアクセルとジャンヌが互いに顔を見合わせた。

 もしその問いに対して「そうだ」と返ってくるならば、自分たちの安易な選択が故に意図しない巻き戻しを起こしてしまったことになる。そうだとしたら何とも歯がゆいし、気持ちも静まらない。

 対して、シェドザールは自身のマズルを指で触りながら口角を下げた。


「断言はできん。もしかすると、それ以外にも『巻き戻り』が起こる条件が存在するやもしれんからな」


 『魔王』の返答に三人は小さくため息を漏らした。

 確かに、先の二つ以外にも条件が存在する可能性は大いにある。どころか、条件の数や組み合わせすら定かではないのだ。そこを探らないとどうにもならない。

 まずはどうしたら『巻き戻し』が発生するのか、トリガーになる条件は何なのか、それを明らかにしなくては始まらない。シェドザールが話を続ける。


「ともかくだ。これらの条件に触れてしまえば最後、『巻き戻し』は発生し、満月の日の翌日の朝に戻ってしまう。だが逆に言えば、条件に触れさえすれば『巻き戻し(・・・・)が発生する(・・・・・)のだから、あれこれと試行を重ねることも出来るわけだ」


 『魔王』のいっそ割り切ったような物言いに、三人が目を見開く。

 確かにそのとおり、と言えばそのとおり。『勇者』と『魔王』がどちらも眠るか死ぬかした際に条件に触れていれば、過程がどうあれ『巻き戻し』が起こるのだ。そもそも『魔王』を倒すことが『巻き戻し』を起こさないトリガーでない以上、回避が困難なことは目に見えている。

 ならば何か突拍子もない事をしたとして、眠ってしまえば朝に戻る。現状謎の『条件』を探るにあたって逆に都合がいいわけだ。ジャンヌもハッと我に返ったように手を打った。


「そ、そうですわね。この『巻き戻し』はきっと世界神アシア様の思し召し、きっと私たちの行いを天からご覧になっていることでしょう」


 そう呟きながらジャンヌが空を見上げる。朝方の青く澄み渡った空、細く雲がたなびいている。当然その空に世界神アシアの姿も気配も全く見えないが、きっとこちらの姿をどこかから見ているのだろう、と感じられる。

 一緒になって空を見上げるシェドザールに、視線を戻したジャンヌがうっすらと細めた目を向けつつ問いかける。


「『魔王』……いえ、シェドザール様。先程貴方様は、ご側近の方は『巻き戻し(・・・・)を認識されて(・・・・・・)おられなかった(・・・・・・・)と仰られました。そうですわよね?」

「左様。この『巻き戻し』を認識しているのは、今この場にいる四名のみ……そのはずである」


 ジャンヌの問いかけに、顔を戻したシェドザールが頷いた。確かに『魔王』の側近たるアンデオルが認識していない時点で、それ以下の魔物が認識できるはずもない。人間の側に至ってはここにいる三人以外にいない。

 つまりはこの四人で切り抜けなくてはならない。先程に共同戦線を敷くと決めた以上、他にやりようもないわけだが。


「これまでのシェドザール様の意見はご(もっと)もと思いますわ。きっと『勇者』と『魔王』の双方がこの事態を認識していることに意味がある……まずは先の二つ目――魔王城の中にいないといけないのかどうかを検証して参りましょう」


 進言したジャンヌに、異を唱える者はいない。まず取り組むとしたらそこからだ。この条件が有効なのかどうかでその後の立ち回りも変わってくる。

 果たしてシェドザールも、満足した様子でジャンヌに微笑んだ。


「さすがはカプレの聖女。理解が早くて助かる次第である」

「お褒めに与り恐縮ですわ」


 『勇者』パーティーでも随一の知識人、上級シスターに任命されるだけの頭の回転の速さに、シェドザールも舌を巻く。ジャンヌもにこやかに微笑みながら、切り揃えられた金糸のような前髪をさっと撫でるのだった。

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