表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

18. Continue:06-4

 その日の夜。妙に浮足立った様子の魔王城の中を通り抜け、『勇者』一行は『玉座の間』の前までやってきた。

 狼獣人の兵士ともう一人の虎獣人の兵士も、武器を手にしたままこちらを見ているが、襲いかかってくる様子はない。どころか城内の他の魔物たちも、『勇者』たちにかかずらっている暇はない、という様子でいた。


「夜になったら、玉座の間に、ってことだったけど……」


 その事実に疑問を抱きつつ、アクセルが玉座の間の扉に目を向ける。

 本来ならこの奥に『魔王』シェドザールがいるはずだ。だが、どうにも様子がおかしい。


「随分、静かですわね」


 ジャンヌの言葉にアクセルとエマも頷いた。

 どうにも、『魔王』がこの奥で待っているにしては、静かなのだ。正確に言うなら、誰かが中にいる気配がしない。

 疑問をいだいたままにアクセルが視線を向けたのは『玉座の間』の前に立つ兵士――その一人。狼の獣人の方に彼はそのまま声をかけた。


「エイレルト、だったっけ。『魔王』の姿を最後に見たのは?」

「えっ? えぇと……今朝、城外から戻ってこられて、ここの廊下を通り過ぎて(・・・・・)、それ以降は一度もこちらには……」


 『巻き戻し』を認識していないのだろう、エイレルトは『勇者』に名前を呼ばれたことに疑問を抱いたようだが、それでもすぐに気持ちを持ち直して報告してきた。

 その内容に、ジャンヌとエマが揃って口をとがらせる。


「では、玉座の間に入ってない、ってことですか?」

「なにあいつ、自分でそこに来いって言ったのに」


 そう、エイレルトの言葉通りなら、『玉座の間』にシェドザールは入っていない。自分でそこに来い、と呼びつけておいたのに、である。

 普通ならそんな、自分から言いだしたことを違えるようなことはしないだろう。あの『魔王』はそうした性格ではない。


「うーん……あっ、そうだ」


 だからこそアクセルは悩みつつ視線を落としたのだが、そこで何かに気がついた。天井を見上げて何か(・・)に呼びかける。


監視室(・・・)の魔物たち、聞こえるか?」

「えっ?」


 声を上げたのはエイレルトだったか、もう一人の虎獣人の方だったか。

 だが『勇者』たちは理解している。『魔王城』の中は飛眼(フライアイズ)が無数飛んでいて、城内を『監視室』がくまなく監視していると。

 エマもジャンヌもそのことを知っている。だからアクセルの行動をすぐに理解して頷いた。


「あ……そうか、飛眼(フライアイズ)

「確かに監視室の方々なら、シェドザール様の居場所を把握しているかもしれませんわ」

「い、いやそうだろうが……お前ら、何故それを」


 納得する二人の横で、兵士たちが目を白黒している。彼らからしたら『なんでそんな事お前らが知ってるの!?』という話だろう。

 そんなことは知らぬとばかりに、飛んでくる一匹の飛眼(フライアイズ)。飛んできた一匹の目が瞬きすると、地下の監視室で作業をしている魔物たちの姿が見えた。画面に向かい合う形で一匹の仔犬族(コボルド)がこちらを見ている。


「あっ、来た」

「フライアイズって向こうの映像をこっちに送ることもできるのか、便利だな」


 エマとアクセルが感心をする中で、向こう側にいる仔犬族(コボルド)が目を見開いた。向こうも向こうで、まさか『勇者』が自分の存在を認識していて、呼びかけてまで来るとは思っていなかったのだろう。

 数瞬絶句した仔犬族(コボルド)が、口を開いて呼びかけてくる。


「……あっ、あの、聞こえますか!? 監視室室長、ラグランジュと申します!」

「ラグランジュ、聞こえている。こちらの声も届いているか?」


 丁寧な口調で挨拶しつつ呼びかける室長ラグランジュに、アクセルが淡々と返事をする。相手が魔物であっても話ができるなら話をする、アクセルは既にその意識が出来上がっていた。

 果たしてアクセルの言葉にラグランジュは、戸惑いながらも『勇者』に接してきた。


「はい、問題ありません! それで、その、『魔王』様の居場所を知りたい、ということですが……」

「ああ。さすがに城内にはいると思うが、どこにいるか分かるか?」


 問いかけられたラグランジュは、すぐさまに監視室内に数多設置されているであろう映像に目を向ける。少し間をおいて、その姿を見つけたらしいラグランジュから答えが返ってきた。


「ええと……はい! 城の外、裏庭(・・)にいらっしゃいます。その……数時間前から(・・・・・・)……」

「裏庭?」

「数時間前、から……?」


 ラグランジュの見つけた魔王の所在に、その場の全員が首を傾げる。

 数時間前から、裏庭に、ずっと。何を思って、何故、そんな場所に? 城の構造をよく把握しているエイレルトも、訝しげに鼻っ柱にシワを寄せた。


「裏庭……あそこには歴代の『魔王』様の墓所がある」

「墓所? そんなところで何やってるんだ、あいつ?」


 アクセルがますます首を傾げるが、しかし帰りを待つわけにも行かない。もし待っていて戻ってくるなら、とっくに彼は戻ってきているだろう。


「とりあえず行ってみましょ、何かあるのかもしれないし」


 エマの言葉に反対するものはいなかった。虎獣人の兵士をその場に残していざ『魔王』が戻ってきた時の連絡役にして、彼らは城の中を進んでいく。

 エイレルトとラグランジュに案内されてたどり着いた扉の先、そこには確かに広い庭があった。既に夜は更け、いくつかの篝火だけが灯っている。


「ここか……」

「申し訳ありません、エイレルト様、ラグランジュ様。ご案内いただいてしまって」

「構わない、状況が状況だ」

「私たちも、『魔王』様が心配なので……」


 ジャンヌが先導してくれたエイレルトと、飛眼(フライアイズ)経由で着いてきてくれたラグランジュに礼を述べるも、二人ともが首を横に振った。緊急事態も緊急事態、こんな状況でいがみ合ってもいられない、ということだろう。

 薄暗い裏庭を進んでいき、視界に大きな洞穴のようなものが見えたところで。その洞穴の横にある岩に座る大きな影があった。


「……」


 誰あろう、シェドザールだ。岩に座り、うなだれたまま身じろぎもしない。


「あっ、いた!」

「『魔王』!」

「『魔王』様!」


 エマが、アクセルが、ジャンヌが、エイレルトが、ラグランジュが、呼びかけながら傍に駆け寄る。だがその時だ。

 ぽたり、シェドザールの足元に雫が一つ落ちる。


「……えっ?」

「『魔王』……泣いている?(・・・・・・)


 そう、『魔王』にして『炎狼王』、全ての魔物の王たるシェドザールが、夜空の下、墓所の傍に座り込んで泣いていたのだ。

 静かに、肩を震わせて、さめざめと。思わず『勇者』たちも半歩後ずさった。


「『魔王』様……こちらで、何を……!?」

「……エイレルトと、ラグランジュか」


 そんな中で一歩踏み出し、地面に片膝をついたエイレルトの呼びかけに、ようやく顔を上げたシェドザールの目は充血して腫れぼったくなっていた。恐らくずっと泣いていたのだろう。

 ぎゅ、っと目をつむって拳で拭ったシェドザールは、そのまま目の前の兵士に問いかけた。


「エイレルト。墓所の警備体制はどうなっている」

「ええ……常時兵士二体、絶え間なく配置されるようにシフトを組んでいるはずです」


 そう答えながらエイレルトは視線を後方に向ける。そこには確かに鎧を着込んだ竜人の兵士が二人立っている。目の前で行われている出来事に目を白黒させているが、今はそれどころではない。

 次いでシェドザールが、静かな声色で問いかけるのはラグランジュだ。


「ラグランジュ。貴様の飛ばすフライアイズはどうだ」

「は、はいっ! 城内でも有数の警戒区域として、三匹体制で常時監視を――」


 慌てた様子で上ずった声を出しながら、ラグランジュが答えたその時だ。彼の言葉を遮り、シェドザールが震える拳で自分の座る岩を殴りつけた。

 そして。


「ならば、遺骨が一つも無い(・・・・・・・・)のは何故だ!?」

「え――」

「えっ……!?」


 怒りと悲しみがないまぜになったような、底冷えのする声色で吐き出された驚愕の真実に、エイレルトもラグランジュも絶句し、引きつったような音を喉から漏らした。

 歴代『魔王』の墓所に、遺骨が一つもない。それは当然、魔王たるシェドザールからしたら憤懣やるかたないだろう。なんならその声が聞こえていたのかいないのか、警護の兵士たちも慌ただしい。


「なにそれ、どういう――」


 絞り出すように声を発したのはエマだ。彼らからしても信じられないという他無い。そもそもが全く、理由のわからない状況なのだ。エマの疑問に答える気は元から無いようで、岩に腰掛けたままシェドザールが夜空を見上げる。


「分かっておる。誰ぞ賊が入り込んで、遺骨を盗んでいった、など言うつもりはない。『勇者』が盗む必要などさらに無い。最初からそんなものは(・・・・・・・・・・)用意されていなかった(・・・・・・・・・・)のだろう(・・・・)

「ま……『魔王』様? 何を――」


 ますます理解の追いつかないことを言い出したシェドザールに、エイレルトの困惑は頂点に達したらしい。飛眼(フライアイズ)の向こうでラグランジュもわけが分からない、と言いたげな表情だ。

 だがその『魔王』の言葉を聞いて、ただ一人、顔色を変えたものがいた。『カプレの聖女』にして世界教中央教会上級シスター――ジャンヌ・ワトー。


「エイレルト様、ラグランジュ様。申し訳ありませんが、外していただけますでしょうか。あちらの衛兵の方々にも下がっていただいて」

「あ、は、はい! 終わりましたら合図を下さい!」

「すまない、『魔王』様を頼む」


 ジャンヌがすぐさま飛ばした言葉に、ハッとした様子でエイレルトが立ち上がった。ラグランジュも飛眼(フライアイズ)の目を閉じて情報を遮断する。

 裏庭の扉をノックすればエイレルトたちには伝わる。恐らくはこの場にいる他の飛眼(フライアイズ)からも、情報が伝達されないようにしたのだろう。

 人払いを行ってから、改めてジャンヌはシェドザールに向き直った。


「さて……お話しいただけますか。何を嘆いていらっしゃるのかを」

「うむ……すまぬ」


 ジャンヌの優しい、しかし笑みのない表情。それを見上げ、シェドザールがすんと鼻をすする。

 そうして彼は、重々しく、ゆっくりと話し始めた。


「吾輩は……知ってしまったのだ」


 話しながら空を見上げる。満月と言うには僅かに欠けた月が煌々と光り、輝く星の見えない夜空を。

 見上げたまま、憎々しいという表情で、彼は。


この一日を越えたとて(・・・・・・・・・・)迎える明日などない(・・・・・・・・・)ことを」

「……え?」


 信じられないことを、その口から吐き出したのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ