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13. Continue:05-1

「うーん……」

「んん……」


 朝日が『勇者』たちの顔を照らす。

 先んじて目を覚ましたアクセルは、のっそりと身を起こして目を擦るや、途端に目を大きく見開いた。傍でいまだ寝たままのエマとジャンヌを揺り起こす。


「おい、二人とも、起きろ」

「ん……ん?」


 起こされて、まずジャンヌが、そしてエマが目を覚まして身を起こした。二人とも状況をすぐに飲み込めずにいたが、周囲の風景(・・・・・)が目に入ってくると、自分たちの置かれている状況を理解したらしい。

 つまり、『また戻ってきた』ということを、だ。


「えーっ、ウソでしょ?」

「ダメだった……ということですか」


 そう、ジャンヌの言葉通り。此度も『巻き戻し』を脱することは叶わず、三人は再び『魔王』討伐前の朝に戻ってきてしまったのだ。

 その事実は魔王城前の衛兵が健在であることが、これ以上無いほどに物語っている。昨日に城入口の衛兵たちは休憩中の控え人員も含めて全員倒しているから、『巻き戻し』が起こっていなければ代理が立っているはずもないのに。


「だな。見ろ、パンも香草も、干し肉も元通りだ」


 ぼやきながら、アクセルがカバンの中から朝食に用いた食材を取り出して、鍋に放り込みつつ言う。これで五度目(・・・)、いい加減この変わり映えしないスープにも飽きてくる。

 鍋に水袋から水を入れつつ、エマが深くため息をついた。


「でもさ。『魔王』をちゃんと倒して、魔王城から出て、それでもダメって……じゃあ、どうすりゃいいの?」


 その尤もな疑問に、アクセルとジャンヌは互いに顔を見合わせるしかなかった。

 二度目と同様、『魔王』討伐には間違いなく成功した。二度目と違って魔王城から外に出て睡眠を取った。それでも、アシアの希望には適わなかったらしい。

 わりと手詰まりになっていることは、三人ともが否定できずにいた。いっそ突拍子もない、予想もつかない何かが必要なのではないか――その考えが頭の中によぎった時だ。


「うーん……もしかして」

「アクセル様、何か?」


 アクセルが何かを思いついたように言葉を漏らす。ジャンヌが首を傾げる中、自分でも納得のいっていなさそうな表情で、アクセルは口を開いた。


「『勇者』ってのは、『魔王』を倒すのが使命だろ。昨日俺たちは『魔王』を倒して城を出た。その時点で『魔王』は存在しない……『勇者』だけが存在している」


 その言葉にはどうにも自信がなさそうだ。だがエマもジャンヌも無言のまま、言葉を選んで話す様子のアクセルに先を促す。結果として数秒の思案を経て、アクセルは結論を口にした。


「だから、『魔王』を倒した上で、『勇者』と『魔王』、両方ともが俺たちが寝たり、死んだりした時に存在してないと、ダメなんじゃないか? 影武者を用意する、って話もあっただろ」


 アクセルの提案にエマもジャンヌも驚きを隠さないながらも、明るい声を漏らした。まさに「その手があったか」と言わんばかりの表情だ。


「あ……」

「あぁ……!」


 二人の反応も無理はない。『勇者』が『魔王』を倒し、その上で『勇者』と『魔王』の両方が生存している状況を作り出す。なるほど、傍から聞いたら何を言っているのだという発想だろう。

 だが、だからこそ。常道で試してダメだったこの状況だからこそ、試す価値がある。そしてその考えに、もう一人至るものがいたらしい。


「なるほど。盲点であった」

「『魔王』」

「おはよう。よく寝た?」


 空から降りてくる飛狼(フライウルフ)が、シェドザールの声を発しながら着地した。この光景に三人ももはや慣れっこ、すっかり打ち解けた様子でエマも声をかけている。

 三人の輪の中に入りながら、シェドザールがくいと鼻先を上げる。


「『勇者』アクセルの発言、聞こえておったが一理ある。確かに『勇者』は『魔王』を打ち倒す存在、『魔王』たる吾輩が死したまま『勇者』がいては、何のためにいる『勇者』ぞ、となろう」


 シェドザールの言葉に、三人がこくりと頷いた。

 一見すると明らかにおかしいのだ。『勇者』に倒されたはずの『魔王』がいても尚『魔王』が世界に存在しているなど。

 だがシェドザールの言葉通り、『魔王』のいない世界で『勇者』をどう定義しようか。だからこそ『魔王』討伐が為されたその上で『勇者』と『魔王』を共に存在させる、という奇策を打つことにも価値があるのだ。


「だよな。でもどうする? 適当な奴を『魔王』の影武者に据えるわけにもいかないんだろ」


 自信ありげに話すシェドザールにアクセルが眉間にシワを寄せつつ問いかける。

 彼の疑問も尤もだ。影武者を立てるにしても『魔王』を演じるためには相応の実力がなくてはらしくない(・・・・・)。そして悲しいかな、力のある魔物はこれまでの冒険の中で、あらかた倒してしまっているのだ。ジャンヌも口元に手をやりながら呟く。


「こういう時、魔王軍の幹部の方々を全員倒してしまっているのが口惜しくなりますわね……」

「ねー……あの、アンデオルだっけ? 側近の。あれもあんまり『魔王』って器じゃないわよね」

「ううむ……」


 エマだけではない、シェドザールも非常に悩ましい声を漏らし、眉間にシワを寄せていた。魔物を束ねる彼としても、現状ですぐに代役が思いつくわけではないらしい。

 アクセル自身、自分で言い出しておきながら予想外に難しいことを理解したらしい。しばし考え込んでから、彼はシェドザールに視線を投げた。


「『魔王』」

「どうした」


 問われ、シェドザールが視線を投げ返す。互いに目を見つめ合いながら、アクセルは静かに問いかけた。


魔王の器(・・・・)って、具体的にどういうものだ?」


 その問いかけに、シェドザールはアクセルから視線を外す。上空、青い空を静かに見上げて思案することしばし、シェドザールの口が重々しく開かれる。


「要件としては三つある。強大な力を持つ魔物であること。理性があること。多くの魔物から慕われる者であること……今に生き残っている魔物の中で、これを満たす者は、吾輩にも覚えがない」

「うーん……」


 彼の回答に、アクセルはまたも考え込みつつ視線を落とした。

 『魔王』の器を持つ魔物がシェドザールの他にいるなら、こんなに彼も悩むことはなかっただろう。すぐにこれ、と候補を上げてどうにかして自分の代役に据えるだけの能力が、『炎狼王』シェドザールにないはずがない。

 『憩いの火』の周囲を静寂と沈黙が包み込む。と、そこで意を決した様子でアクセルが口を開いた。


「一つ思ったんだけどさ」

「なに、アクセル、そんな勿体ぶって」


 随分とわざとらしく前置きをしたアクセルに、エマが訝しむ視線を向けつつ先を促した。

 アクセルにしては珍しい物言いだ。普段ならズバッと本筋に斬り込んでいくのに、今はやたらと言葉を選び、悩みながら話している。かくして彼は、胸の内を語り始めた。


「『玉座の間』の門番してる魔物、いただろ。あの中のどっちかと俺が『魂交換(エクスチェンジ)』を使って入れ替わって、俺がその魔物の身体を使って『魔王』の影武者になる、とか、無理かな?」

「は――!?」


 アクセルの決意のこもった提案にエマが絶句した。ジャンヌもシェドザールも目を見開いて、驚きを隠せずにいる。

 だが当然だろう、アクセル・ド・ラクールは自分の魂を、生命を投げ出して、『魔王』の代わりを務めようとしているのだ。驚かないはずもなければ、真意を確かめずにもいられない。


「本気で……仰っている?」

「話して分かってもらえるかは分からないけど、他に思いつく魔物もいないだろ。門番を任されているってことは相応に強いはずだし、慕われてもいるだろう」


 しかしアクセルはどこまでも本気のようだった。瞳には間違いなく力が宿っている。

 言われれば確かに、『玉座の間』の門番を務めていた狼の獣人と虎の獣人の兵士が一番適役(・・)だ。『魔王』の待つ部屋の前で警護をしているのだから、その実力は疑いようがない。人望ももちろんあるだろう。彼らの力を借りられれば、もしかしたら。


「そこに俺の魂が乗っかって、場合によってはシェドザールの血を飲むとかすれば、力の強さはどうにかなる」


 次いで話されたアクセルの計画に、三人は顔を見合わせる。

 一理ある。『魔王』の血を飲んで力を底上げし、能力の一部を譲り受ければ『代役』としてはぴったりだ。それだけではない、アクセルの身体の中に彼の代わりに入る門番の魂にしても、アクセルの身体と能力を使うのに不都合はそんなに無いと思われる。

 だがそれでも。シェドザールが念を押すようにアクセルに問いかける。


「一理あるが……良いのか? 貴様の仲間に貴様を殺させるということ、理解していないはずがなかろう」

「そうよ、あんた、分かってる? あたしたちがあんたを殺すのよ、いくら身体が魔物だからって」


 エマもシェドザールと一緒になってアクセルに詰め寄った。何をどう足掻いても、エマたちがアクセルを殺す(・・)ことには変わらないのだ。それは即ち、よしんば『巻き戻し』から逃れたとしてアクセルはその先の時間に進めないということだ。

 だが、悲しいかなアクセルはそこまでも織り込み済みだった。表情も声色も、一切変わらないままで二人を見つつ言う。


「分かってる。だからこそだ。俺一人が犠牲になって先に進めるなら、文句はない」


 そのきっぱりと言いきった姿に、エマは深くため息をついた。額を押さえながら呻くように言う。

 アクセル・ド・ラクールは頑固で強情な一面がある、ということをエマとジャンヌは旅の中でよくよく知っていた。そうした面が出てくるのは、「自分が犠牲になってでも皆を助けよう」とする時だ。


「はー……そうだった、こいつ一度こう、と決めたら聞かないんだったわ」

「しようのない奴よ。待っておれ、一人連れて参る」


 シェドザールも呆れた様子でぼやきながら、その場に伏せて尻尾を丸める。

 かくして本体のシェドザールに伴われてやってきた『玉座の間』の門番――エイレルトという名の狼獣人と魔法で魂を交換したアクセルは、『魔王』の代役となるべくシェドザールと共に城内に戻っていくのだった。

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